明日香と万葉歌碑が好きなみくるです。
奈良を散策していると万葉歌碑をよく見かけます。
写真を撮って帰って、そこに書かれている歌について調べるのも楽しみのひとつです。
中には著名人が揮毫されている歌碑もあり興味を惹かれます。
例えば、飛鳥京跡にあった志貴皇子の歌碑は日本画家の平山郁夫氏の手によるものでした。
揮毫者にも注目して歌碑を見ていると、「犬養孝」と書かれたものが多くあることに気付きました。
犬養孝氏は、日本全国の万葉ゆかりの地を生涯を通して歩き、「万葉風土学」を提唱した万葉集研究の第一人者です。
今回は、歴史と万葉のふるさとである飛鳥を愛し、その保存に尽力した犬養孝氏の業績を顕彰する記念館である「犬養万葉記念館」をご紹介します。
【万葉集研究の第一人者】犬養孝氏の業績を顕彰する【犬養万葉記念館】
南都あすかふれあいセンター犬養万葉記念館は、奈良県高市郡明日香村岡にあります。
旧南都銀行明日香支店の店舗蔵造りの外観を残す趣のある建物です。
入口に流れる犬養節
入口には犬養先生の人形が置かれていて、先生が万葉集を朗誦される「犬養節」が流れていました。
独特の万葉朗唱は「犬養節」と呼ばれ、多くの人に親しまれました。
1階の展示
館内には「犬養節」が入ったCDや著書が並んでいました。
万葉衣装の展示と奥に図書室があります。
犬養先生寄贈の本も並んでいます。
つばいちカフェ
つばいちカフェが併設されていて、ランチとカフェメニューが頂けます。
犬養先生の書 持統天皇の歌と飛鳥川の歌
犬養先生の書です。
左は『百人一首』にも選定されていて、よく知られている持統天皇の万葉歌です。
歌碑は橿原市醍醐町の醍醐池のほとりにあります。
春過ぎて 夏来たるらし 白妙の
衣ほしたり 天の香具山
巻1-28 持統天皇
こちらの記事でご紹介しています。
➡【橿原の万葉歌碑めぐり】天香具山を詠んだ持統天皇の歌~大和三山の眺めと共に〈藤原宮跡〉
右の歌碑は明日香村橘の飛鳥川のほとりにあります。
明日香川 瀬々の玉藻の うちなびき
情は妹に 寄りけむかも
巻13-3267 作者未詳
2階の展示
2階には犬養先生の衣装や愛用品、お手製の「万葉かるた」の展示がありました。
万葉かるたはヘビースモーカーであった先生が、タバコ「憩」と「光」の空き箱で手作りされたものです。
万葉集について学べるパネルもありました。
犬養先生揮毫の高市皇子の歌碑
屋外のカフェスペースと、犬養先生揮毫の高市皇子の歌碑です。
山振之 立儀足 山清水
酌尒雖行 道之白鳴
巻2-158 高市皇子
このように万葉集は漢字(万葉仮名を含む)で書かれています。
(読み下し文)
山吹の 立ちよそひたる 山清水
汲みに行かめど 道の知らなく
このように、助詞を加えて歌としてうまく読み解かれています。
「山吹」の黄色と「山清水」の泉で「黄泉の国」を表す。
壬申の乱で活躍した高市皇子が、恋人といわれる十市皇女を思って読んだ挽歌。あなたに会いに行きたいが、黄泉の国へ旅立たれたので、もうお会いできないというこの歌が、犬養先生を偲ぶ教え子の気持ちにピッタリのため、平成12年の記念館の開館時に、この歌碑を建て、山吹を植えました。
犬養万葉記念館の説明板より
こちらの記事では、高市皇子が十市皇女の死を悼んで詠んだ挽歌三首をご紹介しています。
➡万葉歌碑巡り【犬養万葉記念館】高市皇子の挽歌三首~十市皇女の死を悼んで
明日香村の万葉歌碑を歩く
犬養万葉記念館さんが制作された「明日香村の万葉歌碑を歩く」を頂きました。
明日香村に現存する万葉歌碑40基と関連碑5基、案内地図が掲載されています。
犬養先生が揮毫された万葉歌碑は日本全国に141基あり、その内の15基が明日香村にあります。
万葉学者であった故犬養孝は「万葉集は机上の学問ではない、詠われた頃の1300年前に時代背景を戻し、詠われた土地に立って万葉集を声に出して歌いましょう。万葉集は心の音楽です。」と言われました。
明日香村の万葉歌碑を歩く
犬養先生揮毫第1号は甘樫丘にある志貴皇子の歌碑です。
昭和42年に建立されたこの歌碑は、甘樫丘を開発の手から守るために建てられました。
甘樫丘に8階建てのホテルを建てるという計画を阻止しようと、犬養先生に揮毫をお願いし建立したとたん、ホテルの建設計画がなくなり、開発の手から守れたそうです。
全国各地の、故地や豊かな自然を守りたいという思いが犬養先生に伝わり、揮毫されていった結果141基もの数に至ったそうです。
万葉歌碑をめぐる際は、その歌碑がある場所と歌の関係、作者がどういう気持ちであったのか、社会情勢・気象など当時に思いをはせながら、声に出して歌ってみてください。
明日香村の万葉歌碑を歩く
時代こそ異なりますが、万葉集が今の私たちと変わらない気持ちであったことがわかってくると思います。
万葉歌碑巡りをすることで、その故地を知り、当時に想いをはせることができます。
故地を知り伝えていくことが、豊かな自然を守ることにつながると思っています。
こちらの記事で『明日香村の万葉歌碑を歩く』に掲載されている万葉歌碑40基をまとめてご紹介しています。
➡【明日香村の万葉歌碑を歩く】奈良県明日香村の万葉歌碑全40基を写真と共に | みくるの森
犬養先生の足跡を辿るような気持ちで、万葉歌碑を見て歩いています。
犬養万葉記念館のアクセスと利用案内
アクセス
奈良県高市郡明日香村岡1150
TEL: 0744-54-9300
近鉄橿原神宮前駅東口または、飛鳥駅から
奈良交通飛鳥周遊バス 岡寺前 下車徒歩1分
北隣に駐車場があります。
利用案内
開館時間:午前10時~午後5時(入館受付は午後4時30分まで)
毎週水曜休館・入館料無料
おすすめの本
天上の虹 里中満智子 講談社
持統天皇とその周辺の人物の心情を、万葉歌をひもとくことで深く描いた物語です。
高市皇子と十市皇女の悲恋の物語も詳しく描かれていたので、その歌碑を見てみたいと思っていました。
万葉集を深く知りたりと思うきっかけになった本です。
館内の展示パネルあった新聞記事に里中満智子さんが載っていました。
女性があれだけ豊かな文学表現を残した歌集を、世界の人にも知ってほしい。開発が進まず、昔の地形がそのままわかる明日香村は、古代の風景にひたれます。
朝日新聞 2021/6/10
里中満智子さんは明日香村にもよく来られていて、「奈良県立万葉文化館」に揮毫された歌碑が建っています。
最後までお読みいただきありがとうございます。