明日香村と万葉集が好きなみくるです。
万葉学者の犬養孝先生は、「万葉集は机上の学問ではない、詠われた頃の1300年前に時代背景を戻し、詠われた土地に立って万葉歌を声に出して歌いましょう。万葉集は心の音楽です」と仰いました。
多くの学生や一般市民と共に万葉故地を歩かれた犬養先生。
万葉集が詠われた時代に思いを巡らせ、その土地に吹く風を感じながら、皆さんと万葉集を唱和されました。
犬養先生が揮毫された万葉歌碑は日本全国に141基あり、その内の15基が明日香村にあります。
その第1号歌碑は甘樫丘の中腹にある「采女の 袖吹き返す 明日香風 都を遠み いたづらに吹く」という志貴皇子の歌碑です。
昭和42年に建立されたこの歌碑は、甘樫丘を開発の手から守るために建てられました。
甘樫丘に8階建てのホテルを建てるという計画を阻止しようと、犬養先生に揮毫をお願いし建立したとたん、ホテルの建設計画がなくなり、開発の手から守れたそうです。
全国各地の、故地や豊かな自然を守りたいという思いが犬養先生に伝わり、揮毫されていった結果141基もの数に至ったそうです。
万葉歌碑巡り【犬養万葉記念館】高市皇子の歌と犬養先生の思い
犬養先生の足跡を辿るような気持ちで、万葉歌碑を見て歩いています。
この記事では、「犬養万葉記念館」で頂いた『明日香村の万葉歌碑を歩く』に掲載されている万葉歌碑40基をまとめてご紹介しています。
- いにしへの事は知らぬをわれ見ても【作者未詳】
- 大君は神にしませば天雲の【柿本人麻呂】
- わがやどに蒔きしなでしこいつしかも【大伴家持】
- 明日香川明日も渡らむ石橋の【作者未詳】
- 飛ぶ鳥の明日香の里を置きて去なば【元明天皇】
- 今日もかも明日香の川の夕さらず【上古麻呂】
- 采女の袖吹き返す明日香風【志貴皇子】甘樫丘
- 明日香川しがらみ渡し塞かませば【柿本人麻呂】
- 三諸の神南備山に五百枝指し【山部赤人の長歌】
- みもろは人の守る山もとへは【作者未詳】
- 大君は神にしませば赤駒の【大伴御行】
- 斎串立て神酒すえ奉る神主部が【作者未詳】
- わが里に大雪降れり大原の【天武天皇】
- 大原のこの市柴のいつしかと【志貴皇子】
- 天橋も長くもがも高山も高くもがも【作者未詳】
- 片岡のこの向かつ峰に椎蒔かば【作者未詳】
- ふさたをり多武の山霧しげみかも【柿本人麻呂】
- 皆人の命のわれもみ吉野の【笠金村】
- 春日なる三笠の山に月の船出づ【作者未詳】
- 君を待つ松浦の浦の娘子らは【吉田連宜】
- 八釣川水底絶えず行く水の【柿本人麻呂歌集】
- 大口の真神の原に降る雪は【舎人娘子】
- 采女の袖吹き返す明日香風【志貴皇子】飛鳥宮跡
- 山吹の立ちよそいたる山清水【高市皇子】
- 明日香川瀬々の玉藻のうちなびき
- 世間の繁き仮廬に住み住みて【作者未詳】
- 橘の寺の長屋に吾率宿し【作者未詳】
- うつせみと思ひし時に取り持ちて【柿本人麻呂の長歌】
- 銀も金も玉もなにせむに【山上憶良】
- 古に恋ふらむ鳥は霍公鳥【額田王】
- 立ち思ひ居ても念ふくれなゐの【作者未詳】
- さ檜隅檜隅川の瀬を速み【作者未詳】
- 嶋の宮上の池なる放ち鳥【草壁皇子の舎人】
- 御食向かふ南淵山の巌には【柿本人麻呂歌集】石舞台古墳前休憩所
- 明日香川瀬瀬に玉藻は生ひたれど【作者未詳】
- 御食向かふ南淵山の巌には【柿本人麻呂歌集】坂田寺跡
- 明日香川七瀬の淀に住む鳥も【作者未詳】
- 明日香川明日も渡らむ石橋の【作者未詳】飛石
- 今行きて聞くものにが明日香川
- 斎串立て神酒すえ奉る神主部が【作者未詳】加夜奈留美命神社
いにしへの事は知らぬをわれ見ても【作者未詳】
(読み下し)
いにしへの 事は知らぬを われ見ても
久しくなりぬ 天の香具山
巻7-1096 作者未詳
(大意)
神代の昔の事は知らないが、私が見てからだけでも久しくなったよ、天の香具山は。
(揮毫者)
清水公照/東大寺長老
(歌碑がある場所)
明日香村小山
紀寺跡・テニスコート駐車場横
➡いにしへの事は知らぬをわれ見ても【神聖な天の香具山を詠んだ歌】
大君は神にしませば天雲の【柿本人麻呂】
(読み下し)
大君は 神にしませば 天雲の
雷の上に 廬りせるかも
巻3-235 柿本人麻呂
(大意)
大君は神でいらっしゃるので、天雲のかかっている雷丘に仮宮を造っていらっしゃる。
(揮毫者)
犬養孝/国文学者
(歌碑がある場所)
明日香村雷
雷交差点を北へ100m道路添い
わがやどに蒔きしなでしこいつしかも【大伴家持】
(読み下し)
わがやどに 蒔きしなでしこ いつしかも
花に咲きなむ なそへつつ見む
巻8-1448 大伴家持
(大意)
わが家の庭に蒔いたなでしこは、いつになったら花が咲くことだろうか、そしたらあなたと見なして眺めよう。
(揮毫者)
不明
(歌碑がある場所)
明日香村雷
雷橋から遊歩道を上流に約150m
明日香川明日も渡らむ石橋の【作者未詳】
(読み下し)
明日香川 明日も渡らむ 石橋の
遠き心は 思ほえぬかも
巻11-2701 作者未詳
(大意)
明日香川を明日にもわたろう、(石橋の)遠い先の見通しなど思いもよらない。
(揮毫者)
不明
(歌碑がある場所)
明日香村雷
甘樫丘公園前の河原に降りる階段下流側(対岸に移設)
飛ぶ鳥の明日香の里を置きて去なば【元明天皇】
(読み下し)
飛ぶ鳥の 明日香の里を 置きて去なば
君があたりは 見えずかもあらむ
巻1-78 元明天皇
(大意)
(飛ぶ鳥の)明日香の古京を捨てて行ったら、あなたの辺りは見えなくなりはしまいか。
(揮毫者)
不明
(歌碑がある場所)
明日香村雷
雷橋から遊歩道を上流に約300m
今日もかも明日香の川の夕さらず【上古麻呂】
(読み下し)
今日もかも 明日香の川の 夕さらず
河蝦鳴く瀬の 清けくあるらむ
巻3-356 上古麻呂
(大意)
今日もまた明日香川では、夕方になるといつもカエルの鳴く瀬がすがすがしいことだ。
(揮毫者)
犬養孝/国文学者
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
甘樫橋東詰の道路沿い
➡飛鳥川の清らかさを詠む【上古麻呂の歌碑】と守りたい【日本の心のふるさと飛鳥】
采女の袖吹き返す明日香風【志貴皇子】甘樫丘
(読み下し)
采女の 袖吹き返す 明日香風
都を遠み いたづらに吹く
巻1-51 志貴皇子
(大意)
采女の袖を吹き返した明日香風は、都が遠くなってしまったので、ただ空しく吹いている。
(揮毫者)
犬養孝/国文学者
(歌碑がある場所)
明日香村豊浦
甘樫丘中腹(甘樫茶屋前登口階段すぐ)
➡【飛鳥宮跡と志貴皇子の明日香風の歌】甘樫丘の犬養孝先生揮毫の歌碑も
明日香川しがらみ渡し塞かませば【柿本人麻呂】
(読み下し)
明日香川 しがらみ渡し 塞かませば
流るる水も のどにかあらまし
巻2-197 柿本人麻呂
(大意)
明日香川にしがらみをかけて渡してせきとめでもしていたら、流れる水もゆったりとあっただろうに。
(揮毫者)
尾崎邑鵬/書家
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
飛鳥橋北東のポケットパーク
三諸の神南備山に五百枝指し【山部赤人の長歌】
(読み下し)
三諸の 神南備山に 五百枝指し 繁に生ひたる つがの木の いや継ぎ継ぎに 玉葛 絶ゆることなく ありつつも 止まず通はむ 明日香の 古き京師は 山高み 河とほしろし 春の日は 山し見がほし 秋の夜は 河し清けし 朝雲に 鶴は乱れ 夕霧に 河蝦はさわく 見るごとに 哭のみし泣かゆ 古思へば
巻3-324 山部赤人
(大意)
神のいます神南備山に枝を広げ隙間なく生い茂っているつがの木の名のように、つぎつぎに(玉葛)絶えることなく、このようにして通って来たい、明日香の古い都は山は気高く川も雄大である、春の日は山が見事で秋の夜は川音がすがすがしい、朝雲に鶴は乱れ飛び夕霧に蛙はしきりに鳴く、何を見ても泣けてくる、当時のことを思うと。
(読み下し)
明日香川 川淀去らず 立つ霧の
思ひ過ぐべき 恋にあらなくに
巻3-325 山部赤人
(大意)
明日香川の川淀を離れす立つ霧のように、すぐ消え失せるようなわたしの恋ではないのだ。
(揮毫者)
佐佐木信綱/国文学者
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
飛鳥寺境内
みもろは人の守る山もとへは【作者未詳】
(読み下し)
みもろは 人の守る山 もとへは あしひ花さき
すゑへは 椿花さく うらくはし山そ 泣く子守る山
巻13-3222 作者未詳
(大意)
三諸は人が守っている山、本の辺りにはあしびの花が咲き、上の辺りには椿の花が咲いている。
まことに見事な山だね、泣く子を守るように人が守っているこの山は。
(揮毫者)
会津八一/歌人
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
飛鳥坐神社 石段途中
大君は神にしませば赤駒の【大伴御行】
(読み下し)
大君は 神にしませば 赤駒の
はらばふ田居を 都となしつ
巻19-4260 大伴御行
(大意)
大君は神でいらっしゃるので、赤駒が腹這う田を立派な都となさった。
(揮毫者)
犬養孝/国文学者
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
飛鳥坐神社(石段上)
斎串立て神酒すえ奉る神主部が【作者未詳】
(読み下し)
斎串立て 神酒すえ奉る 神主部が
うずの玉陰 見ればともしも
巻13-3229 作者未詳
(大意)
斎串(いぐし)を立て御神酒を捧げまつる神官たちの髪飾りのかずらは、見るからにゆかしい。
(揮毫者)
鈴木葩光/書家
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
飛鳥坐神社 本殿下
わが里に大雪降れり大原の【天武天皇】
(読み下し)
わが里に 大雪降れり 大原の
古りにし里 降らまくは後
巻2-103 天武天皇
(大意)
わたしの里に大雪が降ったよ。
あなたのいる大原の古里に降るのはもっとあとのことでしょう。
(読み下し)
わが岡の おかみにいひて 降らしめし
雪のくだけし そこに散りけむ
巻2-104 藤原夫人
(大意)
わたしのいる岡の水の神様に言いつけて、降らせた雪の砕けたとばっちりが、そこに散ったのでしょう。
(揮毫者)
犬養孝/国文学者
(歌碑がある場所)
明日香村小原
大原神社
大原のこの市柴のいつしかと【志貴皇子】
(読み下し)
大原の この市柴の いつしかと
我が思ふ妹に 今夜逢えるかも
巻4-513 志貴皇子
(大意)
大原のこの市柴原のいつになったら逢えようかと、わたしが思っていたあなたに今夜やっと逢えたよ。
(揮毫者)
尾崎邑鵬/書家
(歌碑がある場所)
明日香村小原
万葉文化館前交差点の北遊歩道角
天橋も長くもがも高山も高くもがも【作者未詳】
(読み下し)
天橋も 長くもがも 高山も 高くもがも
月読の 持てる変若水 い取り来て
君に奉りて 変若しめむはも
巻13-3245 作者不詳
(大意)
天の梯子の長いのがあればよい、高山のとびきり高いのがあればよい。
月読おとこの持っている若水を取って来て、君に捧げて若返っていただきたいものだ。
(揮毫者)
杉岡華邨/書家
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
奈良県立万葉文化館前庭
片岡のこの向かつ峰に椎蒔かば【作者未詳】
(読み下し)
片岡の この向かつ峰に 椎蒔かば
今年の夏の 蔭に比疑へむ
巻7-1099 作者未詳
(大意)
片岡山のこの向こうの岡に椎の実を蒔いたら、今年の夏の日陰になるだろうか。
(揮毫者)
今井凌雪/書家
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
奈良県立文化館前庭
ふさたをり多武の山霧しげみかも【柿本人麻呂】
(読み下し)
ふさたをり 多武の山霧 しげみかも
細川の瀬に なみの騒ける
巻9-1704 柿本人麻呂
(大意)
多武の山霧が深いからでしょうか、細川の瀬に波が騒いでおります。
(揮毫者)
吉川美恵子
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
奈良県立万葉文化館前庭
皆人の命のわれもみ吉野の【笠金村】
(読み下し)
皆人の 命のわれも み吉野の
滝の常盤の 常ならぬかも
巻6-922 笠金村
(大意)
皆人の命もわたしの命も、み吉野の滝の大岩のように、永久に変わらずあってほしいものだ。
(揮毫者)
近藤摂南/書家
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
奈良県立万葉文化館前庭
春日なる三笠の山に月の船出づ【作者未詳】
(読み下し)
春日なる 三笠の山に 月の船出づ
遊士の 飲む酒坏に 影に見えつつ
巻7-1295 作者未詳
(大意)
春日の三笠の山に月の船が出ている。
風流士が飲む酒杯にその影を映して。
(揮毫者)
甫田鵄川/書家
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
奈良県立万葉文化館前庭
君を待つ松浦の浦の娘子らは【吉田連宜】
(読み下し)
君を待つ 松浦の浦の 娘子らは
常世の国の 天娘子かも
巻5-865 吉田連宜
(大意)
君を待つまつらの浦の娘たちは、常世の国の漁夫の娘ではないでしょうか。
(揮毫者)
松塚玲糸/書家
(歌碑がある場所)
明日香村飛鳥
奈良県立万葉文化館前庭