明日香と万葉集が好きなみくるです。
今回は、奈良県明日香村の甘樫丘の北西麓の豊浦の向原寺(豊浦寺跡)の前に建つ万葉歌碑をご紹介します。
明日香川 行き廻る岡の秋萩は【丹比真人國人】
向原寺の前に建つ木製の歌碑です。
(題詞)
故郷の豊浦寺の尼の私房にして宴せる歌三首
(原文)
明日香河 逝廻丘之 秋芽子者
今日零雨尒 落香過奈牟
巻8-1557 丹比真人國人
(読み下し)
明日香川 行き廻る岡の 秋萩は
今日降る雨に 散りか過ぎなむ
(現代語訳)
明日香川が巡り流れている丘に咲いている秋萩は
今日の雨で散ってしまうのだろうか
丹比真人国人は、高貴な家柄で、官位は従四位下で、遠江守に任ぜられています。
この歌は、任地へ向かう際に故郷の飛鳥に戻り、旧友と豊浦寺で宴を開いた時に詠んだ歌です。
豊浦寺は明日香村の豊浦にあった蘇我稲目が創建した日本最古の尼寺。
私房は、僧や尼たちの住む私室のこと。
題詞に「三首」とあるのは丹比真人国人が詠んだこの歌と、尼たちが詠んだ二首を合わせての意味です。
万葉人に最も愛された【萩の花】
萩の花は、万葉人によって最も愛された花です。
万葉集の花の歌の中では、梅よりも多く、140首以上も詠まれています。
古来日本人は、四季の中でも秋を最も愛しました。
草かんむりに秋と書く「萩」はその秋を象徴する花。
万葉人にとって秋の草花と言えば萩を指していました。
万葉集に140首以上も詠まれている萩の花は、万葉人にとって強く心を惹かれた秋の花だったのでしょう。
秋萩が雨に散ってゆくのを惜しむ気持ちがよく表れている歌です。
明日香川が巡り流れている丘というのは、甘樫丘のことでしょうか。
秋の七草は山上憶良の歌から
山上憶良が萩の花を詠んだ歌です。
歌が書かれた木札は、橿原市の万葉の森に建っています。
(題詞)
山上臣憶良の、秋の野の花を詠める二首
(読み下し)
秋の野に 咲きたる花を 指折り
かき数ふれば 七種の花
巻8-1538 その1 山上憶良
(現代語訳)
秋の野に咲いている花を指折って
数を数えれば次の七種類の花が美しい
(読み下し)
萩の花 尾花葛花 瞿麦の花
女郎花 また藤袴 朝貌の花
巻8-1538 その2 山上憶良
(現代語訳)
萩の花、尾花、葛花、撫子の花
女郎花、また藤袴、朝顔の花
2首目は、五七七・五七七の旋頭歌(せどうか)になっています。
山上憶良が秋の花にあげた7種が「秋の七草」として、現代にも伝わっています。
木札の傍らに藤袴が咲いていました。
詳しくなりたい【万葉植物】
花や草木に詳しくないので、『なぞりがき 万葉集―いにしえの草花の歌』が気になっています。
およそ4500首ある万葉集の歌の中から、ハギやウメ、ナデシコなど、花や草木を詠んだ歌67首を厳選。
歌の解説つきで、美しい字の書き方を学ぶことができます。
植物にまつわるコラムや万葉集の豆知識など、読み物も充実の一冊です。
花や草木に詳しくなれれば、万葉歌をより深く鑑賞できそうです。
丹比真人国人が旧友と宴を開いた豊浦寺は、飛鳥時代の始まりの地です。
詳しくはこちらをご覧ください。
甘樫丘には、全長2.3kmの散策路「万葉の植物遠路」があります。
『万葉集』などの古典に登場する40種の植物名当てクイズを楽しみながら歩くことができます。
最後までお読み頂きありがとうございます。