明日香と万葉集が好きなみくるです。
犬養万葉記念館で頂いた「明日香村の万葉歌碑を歩く」を片手に万葉歌碑巡り、40基全て見て歩こうと思っています。
今回は「明日香村の万葉歌碑を歩く」22番の舎人娘子の歌碑をご紹介します。犬養孝先生が揮毫された歌碑です。
大口の真神の原に降る雪は…
舎人娘子の歌碑
舎人娘子の歌碑は、奈良県明日香村飛鳥の「明日香民俗資料館」の南西の広場に建っています。
(原文)
大口能 真神之原尓 零雪者
甚莫零 家母不有國
万葉集 巻8-1636 舎人娘子
揮毫:犬養孝
(読み下し)
大口の 真神の原に 降る雪は
いたくな降りそ 家もあらなくに
(現代語訳)
大口の真神の原に降る雪よ、ひどくは降らないでくれ。この辺りには家もないのだから。
ニホンオオカミを神格化た「真神」
「真神」とは、ニホンオオカミを神格化した呼び名で、オオカミは聖獣として崇拝されてきました。
『大和国風土記』の逸文によると、昔、飛鳥の地に老いたオオカミがいて多くの人を食べたので、土地の人は恐れて「大口神」と呼び、オオカミの住む場所を「大口真神原」と名付けたといいます。
舎人娘子の「大口の真神の原」の歌について、『県民だより奈良』内の『はじめての万葉集』より引用します。
この歌には、「真神が原」という地名が詠まれています。「真神が原」は、「明日香の 真神が原」(巻二・一九九)とも詠まれており、現在の明日香村にある飛鳥寺や万葉文化館付近の一帯を指す呼称と推定されています。そもそも、古代では恐ろしい動物を神と呼ぶことがあり、この「真神」という言葉はオオカミを指すと考えられています。その「真神」の枕詞である「大口の」は、オオカミの大きな口をイメージさせます。この「真神が原」という呼称は、神であるオオカミが住むような、畏れと神聖さの入り交じった特別な原であったことを意味しているのでしょう。
はじめての万葉集/奈良県公式ホームページ (pref.nara.jp)
今回の歌の作者の舎人娘子は伝未詳の女性です。雪を瑞祥とする万葉歌もある中で、彼女は雪が降らないでほしいとうたっています。「家もあらなくに」という言葉から推測すれば、彼女はどこかへ出かけて行く途中で雪に降られたか、もしくは旅に出た大切な人のために、雪よひどく降るなと詠んだのでしょう。宿る家もない心細さと、オオカミが住まうという「真神が原」を通過する不安が募るように、雪がしんしんと降り積もっていく光景が想像されます。
古代の人びとの動物や自然に対する思いは、枕詞や地名と深く結びついているのです。
(本文 万葉文化館 大谷 歩)
詳しくて分かりやすいので、『県民だより奈良』のこのコーナーを毎月楽しみにしています。
奈良県のホームページでバックナンバーが読めます。
飛鳥時代の真神原
飛鳥時代の真神原にはこのような風景が広がっていました。
『日本書紀』には、蘇我馬子が「初めて法興寺(飛鳥寺)を作る。此の地を飛鳥の真神原と名づく」とあります。現在の地名には残っていませんが、飛鳥の中心地一帯は真神原と呼ばれていたようです。
真神原は、恐れと神聖さが混じった特別の場所であったようで、柿本人麻呂は高市皇子への挽歌で
かけまくも ゆゆしきかも 言はまくも
あやに恐き 明日香の 真神の原に
万葉集 巻2-199 柿本人麻呂
(現代語訳)
心にかけて思のもはばかられることよ。言葉に出していうにも、まことに畏れ多い明日香の真神の原に
と詠んでいます。
「大口の真神原」を詠んだ歌はもう一首あります。「大口の」は枕詞で、口が大きい意で、オオカミすなわち真神にかかるとされます。
(読み下し)
三諸の 神奈備山ゆ との曇り
雨は降り来ぬ 雨霧らひ 風さへ吹きぬ
大口の 真神の原ゆ 思ひつつ
帰りに人 家に至りきや
万葉集 巻13-3268 作者未詳
(現代語訳)
神奈備山から、雲が広がり雨が降り出した。天に霧が立ち込め、風も吹いてきた。大口の真神の原を、もの思いに沈みながら帰って行ったあの人は、もう家についたのであろうか。
この歌は、夫が妻の家を出た後、予期せぬ天候の変化がおこり、夫の身を案じる妻の気持ちを詠んだものです。
明日香民俗資料館
「明日香民俗資料館」は「奈良県立万葉文化館」に併設されています。
1階は新規起業者のチャレンジショップ(明日香夢)として、6店舗が入店しています。 2階は民俗資料が展示されていて、昭和時代のノスタルジックな家電製品などがあるほか、農具・民具を中心とした道具類などが並んでいます。
「真神原の万葉歌碑」は、明日香民俗資料館横の真神原が俯瞰できる木製デッキの横に建てられています。
真神が原の万葉歌碑へのアクセス
奈良県高市郡明日香村岡1150
奈良県立万葉文化館の駐車場(無料)が利用できます。
明日香村の万葉歌碑を歩く
「犬養万葉記念館」で頂いた『明日香村の万葉歌碑を歩く』に掲載されている万葉歌碑40基をまとめてご紹介しています。
犬養先生が揮毫された万葉歌碑は日本全国に141基あり、その内の15基が明日香村にあります。
犬養先生の足跡を辿るような気持ちで、万葉歌碑を見て歩いています。
最後までお読み頂きありがとうございます。