NHK大河ドラマ「光る君へ」を毎週楽しみにしているみくるです。
今回は『なぞりがき万葉集』より、『源氏物語』第11帖「花散里」の巻名にちなむ歌をご紹介します。
『なぞりがき万葉集』は現存する日本最古の歌集『万葉集』全20巻、約4500首の中から、萩や梅、撫子など、花や草木を詠んだ歌を選んで取り上げられた本です。
歌を鑑賞しながら、美しい字の書き方を学ぶことができるだけではなく、歌の背景や詠まれている植物について知ることができ、万葉の世界に触れられます。
今回は夏の植物より、橘(みかんの古名)を詠んだ大伴旅人の歌をご紹介します。「花散る里のほととぎす」に、亡妻を恋い慕って泣く旅人自身をたとえた、哀切な歌です。
橘と霍公鳥を詠んだ歌
植物は四季で分類し、現代植物名の五十音順に掲載されています。
大伴旅人が橘を詠んだ歌
夏の植物より橘(コミカン、ミカン)を詠んだ大伴旅人の歌です。
橘の 花散る里の ほととぎす
片恋しつつ 鳴く日しそ多き
巻8-1473 大伴旅人
(現代語訳)
橘の花散る里のほととぎすは、せんない片思いをしながら鳴く日が多いことです。
旅人は、大宰帥として筑紫国に在任中、最愛の妻を病気のために亡くしました。この歌は、宮から遣わされた弔問使への返歌として詠んだもの。橘も霍公鳥と一緒に詠まれることが多く、「花散る里のほととぎす」に、亡妻を恋い慕って泣く旅人自身をたとえた、哀切な歌です。
なぞりがき万葉集
この歌は石上堅魚が詠んだ歌に、大宰師の大伴旅人が答えて詠んだ一首です。
石上堅魚が霍公鳥を詠んだ歌
霍公鳥 来鳴き響もす 卯の花の
共にや来しと 問はましものを
巻8-1472 式部大輔石上堅魚朝臣
(現代語訳)
ほととぎすが来て鳴いています。卯の花と共に来たのかと尋ねられたらよいのですが。
卯の花は初夏に咲く花で、ちょうど霍公鳥の飛来して鳴き出す頃に咲きます。
霍公鳥を石川郎女(大伴旅人の妻)に例えて、霍公鳥となった石川郎女が大宰府に残された旅人のもとに、卯の花が咲くのと共にやって来たのかと詠んだでしょう。
橘を詠んだ旅人の歌もまた散ってゆく橘の花を大伴郎女に、霍公鳥を旅人自身に例えて亡くなった大伴郎女を思って旅人が片思いに泣く日が多いと詠んだと思われます。
旅人の深い哀しみが伝わります。
光源氏が橘を詠んだ歌
『源氏物語』第11帖「花散里」の巻名は光源氏が詠んだ次の歌にちなみます。大伴旅人が橘を詠んだ歌を踏まえた歌です。
橘の 香をなつかしみ ほととぎす
花散る里を たづねてぞとふ
光源氏
(現代語訳)
昔の人を思い出させる橘の香が懐かしいので、ほととぎすはこの花の散るお邸を捜してやってきました。
ほととぎすに源氏自身を重ねています。
紫式部は和歌や漢籍の知識が豊富で、『源氏物語』にはそれらが織り込まれています。好きな物語も、嬉しいことも辛いことも、全てが源氏物語の創作に繋がったのでしょう。無駄なことは何もない、「光る君へ」を観てそう思いました。
それにしても4500首もある『万葉集』が全て頭の中に入っていたのでしょうか。他にも『古今和歌集』や白居易などの漢詩文もありますし、紫式部や清少納言らの教養の深さに驚きます。
こちらの記事では『ガラスペンでなぞる恋する古典』より中宮定子と清少納言の二人の機知に富んだやり取りが垣間見れる歌をご紹介しています。
使用したガラスペンとインク
『源氏物語』の爽やかに香る橘の里をイメージして、『COCOUNITYガラスペンセット』ゴールデンイエローのインクでなぞりました。
COCOUNITYガラスペンセット
なぞり書きに使用した本
なぞりがき万葉集―いにしえの草花の歌 ユーキャン学び出版(2022/10/21)
本の内容はこちらの記事で詳しくご紹介しています。
➡【なぞりがき万葉集】丹波大女娘子が詠んだ恋の歌と大神神社「巳の神杉」
ガラスペンで愉しむなぞり書き
なぞり書きのまとめページを作りました。
流行りのガラスペンとインクを使いたいけれど、文字を書く習慣が無いし何に使ったらいいか分からないって思っていた私にとって、なぞり書きはぴったりなガラスペンとインクの楽しみ方です。
書写とは違い、なぞり書きはなぞることに集中できるのが気に入っています。
ガラスペンの他に万年筆やボールペンなどでもなぞり書きを愉しんでいます。
最後までお読み頂きありがとうございます。