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【桜井で巡る二つの歌碑と鳥見山の風景】古代と近代の歌人が詠んだ自然と心の世界

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景色を楽しみながら、歴史の香りを感じる歌碑を訪ね歩き、いにしえの歌人たちの思いに触れるのが好きなみくるです。
最近は、観光パンフレット『さくらい六街道を巡り歩く』を手に、奈良県桜井市内の「記紀万葉歌碑巡り」を楽しんでいます。

今回訪れたのは、桜井市立図書館の裏庭に建つ二つの歌碑です。古代の歌人・紀朝臣鹿人と、近代の桜井ゆかりの文人・保田與重郎氏の歌碑が並び、時代を超えて鳥見山や山辺の道の風景を詠んだ歌の世界に触れることができます。
静かな裏庭で、古代と現代の歌が重なり合う特別な空間――ここでしか味わえない文化の香りを感じるひと時となりました。

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桜井市立図書館の裏庭で出会う、時を超えた歌の世界

裏庭に並んで立つ二つの歌碑

奈良県桜井市立図書館の裏庭には、二つの歌碑が並んで建っています。

桜井市立図書館の裏庭に建つ二つの歌碑

ひとつは、奈良時代の歌人・紀朝臣鹿人(きのあそみしかひと)の歌碑、もう一つは、近代の桜井ゆかりの文人・保田與重郎(やすだよじゅうろう)の歌碑です。

奈良時代の歌人・紀朝臣鹿人の歌碑

最初にご紹介するのは、紀朝臣鹿人(きのあそみしかひと)の歌碑です。

奈良時代の歌人・紀朝臣鹿人の歌碑
奈良時代の歌人・紀朝臣鹿人の歌碑

(題詞)
紀朝臣鹿人の、跡見茂岡の松の樹の歌一首

(原文)
茂岡尒 神佐備立而 栄有
千代松樹乃 歳之不知久

(読み下し)
茂岡に 神さび立ちて 栄えたる
千代松の木の 年の知らなく

万葉集 巻6-990 紀朝臣鹿人

(現代語訳)
茂った丘に神々しく立派に生い茂っている千年の松の木は、樹齢が分からないほどに歳月を経ている

(語義)

  • 茂岡: 樹木がこんもりと茂った丘。
  • 神さび: 神聖で威厳のある様子。古木や巨木に対して使われることが多い言葉です。
  • 栄えたる: 枝葉が立派に生い茂っている様子。
  • 千代松の樹: 千年もの長い年月を経た松の木。非常に長寿であることを象徴しています。
  • 歳の知らなく: 年齢や樹齢がわからないほど、非常に長い時を経ていること。

題詞にある「跡見茂岡」とは、鳥見山周辺の地名で、古代より神聖視されていた場所です。この歌は、松の樹の長寿や神聖な雰囲気を称え、千年を超える時の流れを思わせる情景を描いています。

作者と背景

作者の紀朝臣鹿人は、奈良時代の官人であり歌人です。この歌が詠まれた正確な背景は不明ですが、一般的には、天皇や貴族の長寿、あるいは国家の繁栄を祈願して詠まれたものと考えられています。

松は常緑樹であり、厳しい冬を耐え抜くことから、古代日本では長寿や不変の象徴とされていました。この歌も、その松の力強い生命力をたたえ、長寿や繁栄を祈る気持ちが込められています。

歌碑の隣にある解説板では、この歌について次のように説明されています。

「この茂岡において詠まれた鹿人の歌は、めでたい言葉を連ね、それがなんとおおらかであろうか。またその心根の何とめでたいことか。」

古代の歌人が自然や松の樹の姿に込めた、長寿や神聖さを称える思いが、現代の私たちにも伝わってきます。

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桜井市出身の文人・保田與重郎の歌碑

紀朝臣鹿人の歌碑の隣に建つのは、桜井市出身の文人・保田與重郎(やすだよじゅうろう)の歌碑です。碑文にはこう刻まれています。

鳥見山の この面かのもを またかくし
時雨は 夜の雨となりけり

桜井市出身の文人・保田與重郎の歌碑

出典は『木丹木母集―秋ノ歌―』。秋の時雨が鳥見山を包む情景を、万葉集の精神に通じる目線で詠んでいます。

桜井市立図書館内歌碑の説明板

解説板では、この歌について次のように触れられています。

「鳥見山に降りかかり夜の帳を下ろし、なおも降り続くこの雨(時雨)は、この私の心をそのまま写し取ったかのようである。」

鹿人の歌のおおらかさに比べ、保田氏の歌は内面の情感が深く映し出され、二つの歌碑を並べて見ることで、古代と近代の視点が重なる鳥見山の風景を、より豊かに味わうことができます。

保田與重郎氏は、桜井で生まれ、古典文学や万葉集に深い関心を抱いた文芸評論家です。桜井市立図書館内には保田氏の功績を称えるコーナーが設けられており、著作や関連資料を手に取ることができます。

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桜井市立図書館の特徴

桜井市立図書館は1999年に開館した比較的新しい建物で、蔵書数は約19万冊にのぼります。一般的な図書のほか、桜井ゆかりの資料を集めた「郷土資料室」が設けられており、特に桜井市出身の文芸評論家・保田與重郎氏の功績を称えるコーナーが充実しています。氏の著書や関連資料を通じて、桜井ゆかりの文人としての活動や万葉集への愛着を学ぶことができます。

また、図書館は鳥見山の麓に位置し、豊かな自然に囲まれた文化的環境の中で、歌碑巡りの合間に静かに読書を楽しむこともできます。

桜井市立図書館
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桜井市立図書館前に建つ「等彌神社」

桜井市立図書館の向かいには、「等彌神社(とみじんじゃ)」が建っています。等彌神社は桜井市内でも古くから信仰され、神武天皇ゆかりの地と伝わる鳥見山の麓に位置しています。境内には、保田與重郎氏の歌碑も建てられており、棟方志功の版画が碑に刻まれているのが特徴です。

図書館前から鳥居と鳥見山を望む景色は美しく、歌碑巡りとあわせて訪れると、桜井の歴史と文化をより深く感じることができます。

桜井市立図書館前に建つ「等彌神社」
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二つの歌碑が語る桜井の魅力

古代の紀朝臣鹿人と近代の保田與重郎氏、時代も心情も異なる二人の歌人が、同じ鳥見山や山辺の道の風景を見つめて歌を詠んでいることに気づかされます。
鹿人の歌のおおらかさと、保田氏の歌の内面性。二つの歌碑を並べて見れば、古代と近代の視点が重なり合い、鳥見山の風景の魅力をより豊かに味わえます。

桜井市は、これらの歌碑を通じて、時代を超えて受け継がれてきた文化や精神に触れることができる、特別な場所と言えるでしょう。

桜井の記紀万葉歌碑

今回ご紹介した紀朝臣鹿人の歌碑「茂岡に神さび立ちて・・・」は、「桜井の記紀万葉歌碑」の61番に掲載されています。

桜井市内には、この歌碑のほかにも樹かげや草むらにひっそりと建つ記紀万葉歌碑が点在しています。注意深く歩くと、見過ごしていた風景や石仏、道標にも目が留まり、散策の楽しみがさらに広がります。

「桜井の記紀万葉歌碑」については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。歌碑の意味や背景、見つけ方のヒントも掲載しているので、桜井の古道散策の参考にぜひチェックしてみてください。

「桜井の記紀万葉歌碑」投稿一覧はこちら

桜井市立図書館へのアクセス

奈良県桜井市河西31

JR・近鉄桜井駅 南口より
 徒歩 およそ20分
 桜井市コミュニティバス 談山神社行き 「神之森町(かみのもりちょう)」下車すぐ

紀朝臣鹿人と保田與重郎氏の歌碑は、桜井市立図書館の東側にある裏庭に建っています。

桜井市立図書館の裏庭

裏庭には、エントランスホールからも回れます。

桜井市立図書館のエントランスホール

約180台収容できる駐車場があります。

桜井市立図書館の駐車場

最後までお読み頂きありがとうございます。

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