産まれも育ちも奈良県のみくるです。
『万葉集』が編纂された時代に政治の中心であった奈良県には、その地にゆかりのある多くの万葉歌碑が建っています。そんな奈良県を天理市観光協会さんの観光ガイド「いにしえの歌碑めぐり」を見ながら巡っています。
山の辺の道には柿本人麻呂、松尾芭蕉だけでなく、小野小町や僧正遍昭、龍王山城の武将・十市遠忠など天理にゆかりの深い偉人たちの歌碑がたくさん建てられています。これらを訪ね歩き、制覇する…なんていうのも天理のテーマウォーキングの楽しみです。
いにしえの歌碑めぐり | 天理観光ガイド・天理市観光協会
サイトを見て、私も天理にゆかりの深い偉人たちの歌碑を訪ね歩き、制覇したいと思いました。
今回は、2番の「歌塚の歌碑」をご紹介します。歌碑は、天理市櫟本町にある柿本寺跡に建っています。
柿本寺跡の「歌塚の歌碑」
柿本氏の氏寺「柿本寺跡」と「歌塚」
天理市櫟本町には、かつて柿本寺というお寺がありました。その名前の通り柿本氏の氏寺で、ここに柿本人麻呂の遺骨を葬ったのが今の歌塚だといわれています。
柿本寺があった一帯は、「柿本寺跡」として保存されています。
歌塚の歌碑
今回ご紹介する歌碑は、柿本人麻呂像の近くに建っています。
石灯籠の向こうが人麻呂像です。
みのむしの子の ちちと鳴く
歌聖の碑
天理市観光協会さんのサイトには、「みのむしの子ハこゝと鳴く」とあるのですが、「みのむし子のちちと鳴く」が正しいようです。
虫は『枕草子』
清少納言の『枕草子』に「虫は」で始まる段があります。
虫は、鈴虫、ひぐらし、てふ、松虫、きりぎりす、はたおり、われから、ひをむし、蛍。
(現代語訳)
虫、鈴虫、ひぐらし、蝶、松虫、こおろぎ、われから、かげろう、蛍(が趣深い)。
みのむし、いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似て、これもおそろしき心あらむとて、親のあやしき衣ひき着せて、「いま秋風吹かむ折ぞ来むとする。待てよ。」と言ひおきて、逃げて去にけるも知らず、風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、「ちちよ、ちちよ。」とはかなげに鳴く、いみじうあはれなり。
(現代語訳)
みのむしは、たいそうしみじみとした趣きがある。鬼が生んだので、親に似て、これも恐ろしい心があるだろうということで、親が粗末な衣服を着せて、「じきに秋風が吹いたらそのときに来ようとしている。待っていてよ。」と言い残して、逃げて行ってしまったことも知らずに、秋風の音を聞き知って、八月ごろになると、「父よ、父よ。」と弱々しく鳴くのは、たいそうしみじみと思われる。
みのむしは、蓑を着ているような姿なので、こう呼ばれていますが、別名を「鬼の子」とか「父乞虫(ちちこいむし)」などと称される可愛そうな虫です。
このみのむしを鬼の子であるとして、親は子をうとましく思い、きたない衣をかぶせて、秋風の吹く頃には戻ると言って逃げた。子はその言葉を信じて、「ちちよ、ちちよ」と鳴いているというのです。
歌塚の歌碑は、『枕草子』を踏まえて詠まれたと思われます。みのむしは、柿の木によくぶら下がっているので、歌聖の柿本人麻呂にかけたのかもしれません。
天理市観光協会さんのサイトに作者として名前がある「大国蕭風」については、調べましたが分かりませんでした。
清少納言の父は、歌人として名高い清原元輔です。清原一族の誰かが参拝して、才媛の文章に結び付けたのかもしれませんね。
こちらの記事では『百人一首』42番の清原元輔の歌をご紹介しています。
2024年に放送されたNHK大河ドラマ「光る君へ」では、大森博史さんが演じられていました。
歌聖として崇敬された、人麻呂の才にあやかろうと多くの歌人が参拝したと思われます。清原元輔も参拝したのかもしれません。
『藤原清輔家集』より
『藤原清輔家集』に
「大和国石上柿本寺という所の前に人磨呂の塚ありと聞きて卒都婆(そとば)に柿本人丸の塚としるしつけて傍にこの歌をなん書けり━━世を経ても あふべかりける 契こそ 苔の下にも くちせざりけれ━━」
とあります。
藤原清輔は平安後期の歌人です。
また、寿永二年(1183)藤原清輔の弟の藤原顕昭が著わした『柿本朝臣勘文』には
「清輔が語っていうに、大和国へ下向した時、古老から聞いたが、添上郡石上村の傍らに社があり、春道社という。その中に寺があって柿本寺といい、人丸の堂である。その前の田の中に小塚があって人丸墓という」
とあります。
歌塚の存在は平安時代から広く知られていたのですね。
柿本寺跡へのアクセス
奈良県天理市櫟本町2340-7
駐車場はありませんが、和邇下神社に参拝した折に立ち寄りましたので、和邇下神社の無料駐車場をそのまま利用させて頂きました。
国道169号線沿いに建つ鳥居から、駐車場までは車の通行はできませんので、東側からお回り下さい。
こちらの記事では、和邇下神社の参道に建つ「影姫あわれの歌碑」をご紹介しています。
最後までお読み頂きありがとうございます。