奈良県桜井市にある 安倍文殊院(あべもんじゅいん) は、飛鳥時代の大化元年(645)に安倍倉梯麻呂(あべのくらはしまろ)によって創建されたと伝わる古刹です。
「三人寄れば文殊の智恵」ということわざで知られる文殊菩薩をご本尊とし、安倍文殊院、京都の切戸文殊(智恩寺)、山形の亀岡文殊(大聖寺)からなる「日本三文殊」の第一霊場 として位置づけられ、学問や智恵を授かる寺として古来より信仰を集めてきました。

今も学業成就や合格祈願を願う参拝者で賑わい、受験生にとっては「聖地」のような存在です。しかしその魅力は信仰にとどまらず、国宝の仏像や古墳時代の史跡、陰陽師・安倍晴明や遣唐使・阿倍仲麻呂にまつわる物語まで、歴史と文化の宝庫でもあります。
この記事では、安倍文殊院の歴史と見どころをわかりやすくまとめ、参拝や観光に役立つ情報をご紹介します。
日本三文殊のひとつ「安倍文殊院」を歩く
日本三文殊の第一霊場「安倍文殊院」
「安倍文殊院(あべもんじゅいん)」は、華厳宗の別格本山で、古代豪族・安倍氏の氏寺として飛鳥時代に創建されました。安倍氏は陰陽師・安倍晴明や遣唐使・阿倍仲麻呂を輩出した名門氏族であり、その精神的な拠点としてこの寺が営まれてきたと考えられています。

特に重要なのは、安倍文殊院が 日本三文殊の第一霊場 とされていることです。
文殊信仰は奈良時代から平安時代にかけて国家的にも広がり、智恵を授かる仏として官人や学僧に篤く信仰されました。その中心的な拠点がここ安倍文殊院であり、以来一千年以上にわたり「智恵の寺」として人々の願いを受け止め続けています。
境内には、5世紀から6世紀にかけて築かれた「文殊院西古墳」と「文殊院東古墳」が現存しており、いずれも古代豪族・安倍氏との関連が想定されています。古墳時代の遺構と、飛鳥時代に創建された寺院とが同じ空間に共存している点は、安倍文殊院の大きな特色です。
安倍文殊院の歴史
安倍文殊院は、大化の改新(645年)の頃、左大臣として活躍した安倍倉梯麻呂が、安倍氏の氏寺として建立したのが始まりです。当初の寺は現在の文殊院から少し西南にありましたが、平安時代末期に焼き討ちで全焼してしまいました。現在は「安倍寺跡」として国の史跡に指定されています。
鎌倉時代には、現在地に 満願寺(文殊堂として再建され、仏師快慶による文殊菩薩像が安置されました。江戸時代の1665年に本堂が再建され、明治以降は文殊院と呼ばれるようになりました。
また、かつて多武峰の妙楽寺(談山神社)が持っていた阿弥陀三尊像は、ここに移され 釈迦三尊像 として現在も保存されています。

安倍文殊院の境内の見どころ
安倍文殊院の境内は、古代から現代までの歴史の重層性を肌で感じられる場所です。歩くだけで、第一霊場としての格式と神聖な空気を体感できるのが魅力です。鎌倉時代作の国宝・渡海文殊群像が荘厳に安置された本堂を中心に、多彩な見どころが点在しています。
安倍文殊院の表山門
安倍文殊院の表山門は江戸時代に造られたものです。
門の横に置かれている石は下馬という文字が彫られており、これにはどんな身分の方でもこの門よりは馬を下りて参拝するようにという意味がありました。

表山門を潜ると、両側に石灯籠が並ぶ石畳の参道が続きます。

この日はあいにくの雨でしたが、濡れて光る様子も綺麗でした。

車で訪れて境内の駐車場に停めると、北側から入ることになるのですが、ぐるりと回って西山門から参拝されることをおすすめします。

安倍文殊院の本堂
安倍文殊院の本堂は、江戸時代に再建された歴史ある建築で、市指定重要文化財にも指定されています。元々は元安倍寺・満願寺の本堂で、寛文五年(1665年)の再建を経て、現在は安倍文殊院の本堂として使用されています。

建物は 七間四面の入母屋造り・本瓦葺 で、格式ある堂々とした佇まいを見せます。さらに本堂には 礼堂 が附設され、参拝者が落ち着いて読経や祈願できる空間が整えられています。

本堂の奥には、昭和四十八年(1973年)に完成した 大収蔵庫 があり、「渡海文殊群像(とかいもんじゅぐんぞう)」が安置されています。
「渡海文殊群像」は建仁三年(1203)の快慶作の国宝です。

獅子に乗られている文殊菩薩像は7mもある大きなもので圧倒されました。
渡海文殊群像は、獅子に乗る文殊菩薩を中心として、向かって左に維摩居士(最勝老人)と須菩提(仏陀波利三蔵)、向かって右に獅子の手綱を持つ優填王と先導役の善財童子、四人の脇士を伴う「渡海文殊群像」は、雲海を渡り、私達衆生の魔を払い、智恵を授ける為の説法の旅に出かけているお姿です(公式サイトより引用)。
参拝記念に「絵葉書(獅子に乗る文殊菩薩)」と、五芒星が型押しされた「知恵のらくがん」を頂きました。

御守りは「金閣浮御堂・霊宝館」を拝観すると頂けます。
金閣浮御堂・霊宝館
「金閣浮御堂・霊宝館」は開運弁財天(大和七福神)、安倍仲麻呂、安倍晴明の御尊像、安倍晴明の御尊軸をはじめ陰陽道に関する宝物をお祀りしている御堂です。
堂内の六面の壁面には秘仏の十二天御尊軸(室町時代)がお祀りされていて、大層見応えがありました。

御堂は「七まいり」という魔除け・方位災難除けを祈願する願掛けの修行場となっています。

文殊院西古墳
文殊院西古墳(もんじゅいんにしこふん)は、安倍文殊院の境内に位置する古墳で、古墳時代終末期の7世紀後半に築造されたと考えられています。

墳形は明らかではありませんが、直径約25〜30メートル、高さ約6メートルの円墳と推定されています。被葬者には、安倍文殊院を創建した安倍倉橋麻呂の可能性が高いとされています。
奈良県内でわずか5基しか指定されていない 「特別史跡古墳」 の一つで、その希少性と歴史的価値の高さから、古代史や古墳研究に関心のある人々の注目を集める存在となっています。
文殊院東古墳
文殊院東古墳(もんじゅいんひがしこふん)は、安倍文殊院の境内に位置する古墳で、古墳時代終末期の7世紀前半に築造されたと考えられています。

墳形は円墳または方墳と推定されますが、詳細な調査は行われておらず、規模は明らかではありません。石室は 両袖式横穴式 で、自然石と切石を組み合わせた構造を持ち、全長は約13メートルに及びます。古代職人の技術と、閼伽井窟としての信仰の場としての面影を今に伝える貴重な古墳です。
国の特別史跡に指定されている隣の 文殊院西古墳 の陰に隠れ、素通りされることも多いものの、奈良県指定史跡としての価値は高く、古代史や古墳研究に関心のある人々に注目される存在となっています。
陰陽師・安倍晴明を祀る「晴明堂」
安倍文殊院の境内にある「合格門」は、学問成就や合格祈願の象徴で、受験や仕事の成功を願う多くの参拝者が門を潜られす。

合格門から石段を登ると陰陽師・安倍晴明をお祀りする「清明堂(せいめいどう)」があります。

晴明堂は、安倍晴明千回忌を迎えるにあたり二百年振りに再建されました。正面にある「如意宝珠」は、いかなる願望も意のままに成就し、また悪を払い、災難を防ぐ功徳があると信じられている玉です。
「参拝の方は御自身の手で如意宝珠を撫で、魔除け方位災難除けを御祈願下さい」とありました。

安倍晴明は、2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」で、ユースケ・サンタマリアさんが演じられて話題になりました。
こちらの記事では、清明堂と合わせて、安倍晴明が星を見て吉凶を占ったと伝わる「安倍晴明天文観測の地」や、古来より安倍晴明の母親と伝承される白狐・信太森葛葉稲荷(り)をお祀りしている「稲荷社」をご紹介しています。
干支ジャンボ花絵と花の広場
金閣浮御堂が浮かぶ池の隣の「花の広場」では、11月中旬にパンジー8000株を使った干支を描くジャンボ花絵が作成されます。

干支ジャンボ花絵は合格門を登った所にある展望台「安倍晴明天文観測の地」より見渡せます。

パンジー8000株で描かれる「干支ジャンボ花絵」は美しく、見応えがあります。
安倍文殊院のコスモス迷路
「干支ジャンボ花絵」が作成される花の広場は、9月中旬頃から「コスモス迷路」になります。

およそ30種5万本のコスモスで作られた迷路を楽しみながら、両側に迫るコスモスを鑑賞できます。
多くの品種が植えられているので、長い期間楽しめます。普段、見ることのできない珍しい品種のコスモスも植えられています。
見頃は10月中旬ごろで、期間は11月初旬までです。
コスモス迷路の開園日や開花状況は、安倍文殊院の公式サイトで公開されています。
阿倍仲麻呂望郷の歌
安倍文殊院の境内にある阿倍仲麻呂の歌碑は、遣唐使として唐に渡った仲麻呂が詠んだ望郷の歌を刻んだものです。

天の原 ふりさけ見れば
春日なる
三笠の山に 出でし月かも
阿倍仲麻呂
(現代語訳)
大空を仰ぎ見て遠く眺めると月が出ている。
この月は祖国の都の東に広がる春日の三笠山から昇るのを見た、あの月と同じなのだなあ。
阿倍仲麻呂は安倍文殊院のある「安倍山」で生まれたといわれています。
阿倍仲麻呂と創建者の安倍倉橋麻呂は同じ安倍氏ゆかりの人物ですが、世代も異なるため、直接の親族関係は確認されていません。それでも、同じ安倍氏の土地と信仰の場で活動した二人の存在は、訪れる人に古代から続く歴史の深みを感じさせてくれます。
安倍晋三元首相の献灯碑
「安倍仲麻呂公望郷詩碑」の左隣に安倍元首相の献灯碑が建っています。

第90代内閣総理大臣と刻まれています。
2010年に寄進されたようです。
祈世界平和
系譜は明らかではありませんが、安倍元首相は、安倍晴明を先祖として敬われていたそうです。
安倍文殊院の桜
春になると、安倍文殊院の境内は桜に彩られます。特に金閣浮御堂が浮かぶ文殊池の周囲の桜は見事で、池に映る花や泳ぐ錦鯉とあわせて楽しめます。

また、稲荷社周辺の桜も美しく、参拝や散策の合間に写真を撮る人も多い人気スポットです。

※御朱印や春限定の参拝体験については、後日作成予定の桜特集記事で詳しくご紹介します。
安倍文殊院の見どころ総まとめ|歴史・古墳・桜・干支花絵も
奈良県桜井市にある安倍文殊院は、日本三文殊の第一霊場として古くから信仰を集める知恵の寺です。境内には、江戸時代に再建された本堂や安倍晴明堂、文殊院西古墳・東古墳、阿倍仲麻呂の歌碑など、歴史や文化を感じられるスポットが点在しています。
参拝や散策を通じて、古代から続く安倍氏ゆかりの歴史や、知恵を授ける文殊菩薩への信仰を体感できます。春には文殊池や稲荷社の桜が美しく咲き、池に映る花や泳ぐ錦鯉、金閣浮御堂との景観も楽しめます。
さらに、展望台から一望できる干支のジャンボ花絵や、ドラマ「光る君へ」にも登場した陰陽師・安倍晴明をお祀りする晴明堂など、季節ごとの見どころも豊富です。歴史・文化・自然のすべてを感じられる安倍文殊院は、古代史ファンだけでなく、旅行や散策を楽しみたい方にもおすすめのスポットです。
安倍文殊院へのアクセス
所在地
奈良県桜井市阿部645
TEL 0744-43-0002
駐車場
駐車場は3か所にありますが(普通車500円)、第1・第2駐車場は閉鎖されていることがあります。

境内駐車場(乗用車専用)の様子です。

拝観時間
- 拝観時間:9時~17時
- 祈祷受付:9時~16時
拝観料
境内は自由に見学できますが、本堂と金閣浮御堂の拝観には、拝観料が必要です。
- 本堂 国宝・文殊菩薩 (参拝記念品付):700円
- 金閣浮御堂霊宝館(七まいりおさめ札・御守り付):700円
- 本堂・金閣浮御堂 共通参拝:700円
詳しくは、安倍文殊院の公式サイトよりご確認ください。
最後までお読み頂きありがとうございます。