万葉集と神社仏閣のご神木が好きなみくるです。
今回は、古くは石上神宮の境内に数多く繁茂していた神杉を詠んだ万葉歌をご紹介します。

石上布留の神杉を詠んだ歌
石上神宮外苑公園の万葉歌碑
奈良県天理市の石上神宮の正面参道を出た南側には神宮外苑公園が広がっています。

歌碑は外苑公園入口の左手に建っています。


(原文)
石上 振乃神杉 神備西
吾八更々 戀尓相尓家留
巻10-1927 作者未詳
(読み下し)
石上 布留の神杉
神びにし
我やさらさら 恋にあひにける
(現代語訳)
石上の布留の社の神杉ほど神々しくはありませんが、年老いた私がいまさらながら恋したことです。
この歌には、老いや人生経験を重ねた人物が、予期せずして再び恋に落ちてしまったことへの驚きや戸惑い、そしてどこか諦めや切なさが表現されています。
布留の神杉の「古びて神聖になった」姿に、自分自身が年老いたことを重ね合わせ、もはや恋とは無縁だと思っていたのに、思わず恋をしてしまった状況を嘆いている(あるいは、感慨深く詠んでいる)のです。
若い頃の情熱的な恋とは異なる、人生の円熟期に訪れた、静かで、しかし抗い難い恋の感情が伝わってくる一首と言えるでしょう。

布留の神杉を詠んだ歌をもう一首
『万葉集』に石上布留の神杉を詠んだ歌がもう一首あります。
(原文)
石上 振神杉 神成
戀我 更為鴨
巻11-2417 柿本人麻呂歌集
(読み下し)
石上 布留の神杉 神さびて
恋をも我は さらにするかも
(現代語訳)
石上の布留の神杉のように年老いた身で、私はまた恋をしてしまうのです。
石上神宮の神聖な杉の木が長い年月を経て神々しい姿になっているように、自分もまた長い間恋をして、そのために老いていくようだ、という切ない恋心を詠んでいます。
時が経つことによる変化を、恋の深さと重ね合わせている点が特徴的です。「恋をして老いる」という、時間の経過と恋の重みを感じさせる歌といえるでしょう。
こちらの記事では、石上神宮の大鳥居の手前に建っている柿本人麻呂の歌碑をご紹介しています。
石上神宮の神聖な杉の木が長い年月を経て神々しい姿になっているように、自分もまた長い間恋をして、そのために老いていくようだ、という切ない恋心を詠んだ歌です。
古くからこの地が人々に神聖な場所として認識され、歌の題材とされてきたことがうかがえます。
石上の杉を詠んだ挽歌
『万葉集』には、「過ぎる」(時が経つ、忘れる)と石上の「杉」を掛けて、故人への強い思いを詠んだ歌があります。
石田王(いはたのおほきみ)が亡くなった時に、丹生王(にふのおほきみ)の詠んだ挽歌です。
(読み下し)
石上 布留の山なる 杉群の
思ひ過ぐべき 君にあらなくに
万葉集 巻3-422 丹生王
石上神宮外苑公園の桜まつり

神宮外苑公園は桜並木が見事で、天理市の桜ライトアップや華やかな桜まつりが開催されます。石上神宮には外苑公園を中心に約600本のソメイヨシノが植えられています。

外苑公園・石上神宮前を通る県道51号線にも桜並木が続いています。

期間中、桜並木や公園内には風雅なぼんぼりが設置され、お店も出て、夜には明かりが灯されます。桜の見ごろは例年3月下旬頃から4月中旬頃です。
桜の季節の外苑公園の様子と天理市の桜の名所をこちらの記事でご紹介しています。
石上神宮外苑公園へのアクセス
奈良県天理市布留町113-1
こちらの記事で石上神宮の見どころをご紹介しています。
最後までお読み頂きありがとうございます。