古墳や古道、そして古代史の舞台となった場所を歩くのが大好きなみくるです。
奈良県桜井市は、私にとって何度も足を運びたくなる場所のひとつ。万葉の香りが漂う山の辺の道や、古代氏族の足跡を伝える古墳群など、歩くたびに新しい発見があります。
そんな桜井市の地名の由来に関わる井戸が残されていると知り、ますます興味をそそられました。その名は「桜の井(さくらのい)」。大和の七名井のひとつにも数えられた名水です。
古代から今へと伝えられてきたこの井戸を実際に訪ねてみたくなり、桜井探訪の一日を計画しました。
大和の七名井に数えられた伝承の地「桜の井」
桜井市の地名の由来となった井戸「桜の井」
奈良県桜井市にある「桜の井(さくらのい)」は、「大和の七名井」のひとつとして古代からその名を伝え、桜井という地名の由来にもなったとされる井戸です。
『大和名所図会』など江戸時代の地誌にも記され、かつては清らかな水を湛えていたと伝えられています。

人々の生活を支えただけでなく、古代の祭祀や信仰とも結びついていたのかもしれません。水が湧き出る場所は、古代の人々にとって特別な意味を持っていました。
現在はふたがされ、簡単に中を覗くことはできませんが、実際に訪れてふたを少し持ち上げてみると、とても深いことが分かりました。今も水をたたえているとされ、古代から人々の生活を支えてきたことを実感させてくれます。
桜の井の由来と履中天皇の伝承
桜の井の名には、古代の天皇にまつわる伝承が残されています。
第17代履中天皇がこの地を訪れた際、清らかな井戸水を飲んでその美味しさを称賛されました。その記念に、天皇自らが井戸のそばに桜の木を植えられたことから、この井戸は「桜の井」と呼ばれるようになったと伝えられています。

この伝承は、桜井という地名の起こりにもつながっており、単なる生活用水の場を超えて、古代からの歴史と文化を今に伝える貴重な存在なのです。
「大和の七ツ井」とは
「桜の井」は、大和の名水として伝えられる「大和七ツ井」の一つに数えられています。
大和七ツ井とは、古くから清浄で枯れることのない名井として名高かった七つの井戸のことで、いずれも水が清らかで枯れることがなく、往古より霊泉として人々に尊ばれてきました。
大和七ツ井のほかの井戸としては、奈良市の「井上井(いのうえのい)」や、橿原市の「阿礼井(あれいのい)」などが伝わりますが、現在までその姿をとどめているのは限られています。
その中でも桜の井は、山の辺の道沿いにあることから旅人に広く知られ、古代から近世にいたるまで多くの記録に名を残しています。
桜の井が今も深く水を湛え、訪れる人に古代の記憶を感じさせてくれるのは、とても貴重なことです。
桜の井から見える赤い鳥居の神社(三輪流両部神道心道教)
桜の井がある路地の正面に、赤い鳥居があるのが目に留まりました。

気になって近づいてみると、そこは「三輪流両部神道心道教」という宗教施設でした。

一般的な観光案内には載っていなくて、詳細は不明ですが、桜の井を訪れた人なら、同じように気になって足を向けるかもしれません。
境内は美しく整えられていました。

古代から伝わる水の伝承地を訪ねたはずが、思いがけず現代の信仰空間と出会う――これもまた、古代史が息づく桜井市ならではの楽しみ方かもしれません。
高台に建っているので、鳥居越しに見る景色が綺麗でした。

磐余の道と桜井市の古代史スポット
奈良盆地の中央部を通る「磐余の道(いわれのみち)」は、飛鳥と纏向・初瀬を結ぶ歴史ある街道です。『日本書紀』や『万葉集』にも記され、古代の天皇や歌人たちが行き交ったとされるこの道沿いには、数多くの古代史スポットが点在しています。
ここでは「桜の井」とあわせて巡りたい、磐余の道エリアのスポットを関連記事としてまとめました。古代ロマンを感じながら、ぜひ歩いてみてください。
安倍文殊院
「三人寄れば文殊の知恵」で知られる、日本三文殊のひとつ。飛鳥時代に創建された古刹で、豪華な渡海文殊群像が名高い寺院です。
艸墓古墳(くさはかこふん)
古墳時代前期の前方後円墳。磐余池の近くにあり、舒明天皇の皇后・皇極天皇との関連も指摘される古墳です。
吉備池廃寺跡
舒明天皇が勅願したと伝わる百済大寺の跡地。国史跡に指定されており、塔や金堂の礎石が当時の規模を物語ります。
若桜神社(準備中)
安倍氏の祖神を祀ると伝わる神社。磐余の地に根付いた氏族の歴史を感じさせる古社です。
安倍寺跡(準備中)
安倍文殊院の南側に位置する寺跡で、安倍氏の氏寺と考えられています。礎石などが残り、古代氏族の信仰を今に伝えています。
山田寺跡(準備中)
蘇我倉山田石川麻呂が創建した寺院跡。中門や回廊の礎石が整然と残り、飛鳥時代寺院の姿を偲ぶことができます。
土舞台(準備中)
「倭舞(やまとまい)」が行われたと伝わる舞台跡。文武天皇や藤原京ともゆかりがあり、芸能と祭祀の場として知られています。
こちらの記事では、古代ヤマト王権の中心地であり、そこかしこに万葉人の足跡が見える桜井市の魅力を、観光パンフレット「さくらい六街道巡り歩く」を足掛かりにお伝えしています。
まとめ
桜井の名の由来を伝える「桜の井」は、今もひっそりと水をたたえ、古代の息吹を感じさせてくれます。周辺には歌碑や古社も点在し、訪れるたびに新たな発見があり、古代ロマンを身近に感じられるのが桜井の魅力です
すぐ近くの 桜井市立図書館にある歌碑 も併せて訪ねれば、より深く歴史の世界に触れられるでしょう。次回は、若桜神社や等彌神社をご紹介しますので、どうぞお楽しみに。
桜の井へのアクセスと目印
奈良県桜井市谷341
駐車場はありません。
JR・近鉄桜井駅 南口より 徒歩 約8分です。
県道154号線から脇道に入る場所に目印があり、「桜の井 桜井の地名おこりの井戸」と表記されています。

正面に赤い鳥居があるのが見えます。

最後までお読み頂きありがとうございます。