【山の辺の道「奈良道」の万葉歌碑を歩く】帯解寺に建つ春霞を詠んだ歌(奈良県奈良市)

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景色を楽しみながら歌碑を訪ね歩き、いにしえの歌人の思いに触れるのが好きなみくるです。

奈良県奈良市今市町にある「帯解寺おびとけでら」で万葉歌碑を見つけたことから、「山の辺の道『奈良道』を守る会」さんの存在を知りました。

今回は、「山の辺の道『奈良道』を守る会」さんが建立された帯解寺に建つ万葉歌碑(『万葉集』巻10-1874)と、「山の辺の道 奈良道(ならみち)」についてご紹介します。

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帯解寺に建つ万葉歌碑と奈良道

安産・子授け祈願の「帯解寺」

帯解寺(おびとけでら)は、奈良県奈良市今市町にある華厳宗の寺院で、日本最古の安産・求子(子授け)祈願の霊場として知られています。正式名は、子安山 帯解寺(こやすざん おびとけでら)です。

安産・子授け祈願の「帯解寺」

帯解寺の創建は、今からおよそ1200年前の天安2年(858年)と伝えられています。

文徳天皇の妃である染殿皇后(藤原明子)が、長らくお子に恵まれず悩んでいたところ、帯解寺の地蔵菩薩に祈願した結果、無事に後の清和天皇を安産されたことに由来します。文徳天皇はその喜びから、「無事に腹帯が解けて安産できた寺」という意味で「帯解寺」という寺号を賜ったとされています。

帯解寺の本堂

帯解寺のご本尊は「帯解子安地蔵菩薩立像」で、鎌倉時代作の国の重要文化財に指定されています。お腹のあたりに帯を結ぶような姿から「腹帯地蔵」とも呼ばれ、安産の信仰を集めています。

帯解寺については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。

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帯解寺に建つ万葉歌碑

帯解寺の万葉歌碑は、地蔵堂の隣に建っています。

帯解寺に建つ万葉歌碑
帯解寺に建つ万葉歌碑

「山の辺の道『奈良道』を守る会」さんによって建立された歌碑です。

帯解寺に建つ万葉歌碑

(題詞)
詠月(月を詠める)

(原文)
春霞 田菜引今日之 暮三伏一向夜
不穢照良武 高松之野尓

(読み下し)
春霞 たなびく今日の 夕月夜
清く照るらむ 高松の野に

万葉集 巻10-1874 作者不詳

(現代語訳)
春霞がたなびいているこの夕月夜、高松の野に月は清く照りわたることだろう。

(語義)
春霞(はるがすみ)たなびく今日の夕月夜(ゆふづくよ) 「春霞がたなびいている、今日の夕方の月夜」を指します。春の夕暮れ時に、うっすらと霞がかかった空に月がぼんやりと浮かぶ、幻想的な情景が目に浮かびます。

清く照るらむ 高松の野に 「(その月が)清らかに照らしていることだろう、高松の野に」という意味です。「らむ」は推量の助動詞で、「~だろう」「~に違いない」という気持ちを表します。歌の詠み手は今いる場所から遠く離れた「高松の野」に思いを馳せ、今日の美しい月がそこも同じように清らかに照らしていることだろう、と想像しています。

この歌は、おそらく詠み手が今いる場所から、かつて親しい人と過ごした、あるいは深い思い入れのある「高松の野」を遠く見つめながら、そこにも同じ月が輝いていることに思いを馳せているのでしょう。離れた場所への郷愁や、そこにあるものへの愛情、あるいは遠く隔てた人への思慕といった、万葉集によく見られるテーマが感じられます。

春霞の幻想的な美しさと、月光の清らかさ、そして遠く離れた場所への切ないほどの思いが融合した、心に残る一首となっています。

高松の野」の所在地については、奈良市街の東南に位置する高円山の西麓一帯の野とする説など諸説あります。

「高円山(たかまどやま)」は、奈良市街の東南に位置し、春日山の南に続く山です。万葉集には「高円」と詠まれた歌も多数あり、聖武天皇の離宮があったと伝えられるなど、重要な場所でした。
この説では、「高松」と「高円」は音が似ており、転訛したもの、あるいは同じ場所を指す別の表記であると考えることがあります。

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山の辺の道「奈良道」を守る会について

山の辺の道『奈良道』を守る会」さんは、日本最古の道とも言われる山の辺の道のうち、特に奈良市域に広がる「奈良道(北コース)」の保存、整備、活性化を目的として活動している団体です。

山の辺の道は、桜井~天理間の南コースが比較的整備され、観光客にもよく知られていますが、そこから北へ続く奈良市内の区間は、歴史的な重要性がありながらも整備が遅れていました。

山の辺の道(南)コース
山の辺の道(南)コース | 天理観光ガイド・天理市観光協会

この状況を改善し、より多くの人に奈良道の魅力を知ってもらい、地域の活性化と観光振興に寄与・貢献することを目的に、平成20年(2008年)4月に奈良市民企画事業として発足したのが「山の辺の道『奈良道』を守る会」さんです。

主な活動内容

  1. 環境整備・景観保全事業
    • 沿道の整備
    • 案内板・道標の設置
    • 万葉植物の植栽
  2. 啓発・誘致促進事業
    • 案内地図「山の辺の道・奈良道を歩く」の作成・配布
    • 講演会の開催
    • イベント事業の開催
    • 広報活動

「山の辺の道『奈良道』を守る会」さんは、これらの活動が評価され、平成28年度には環境省の自然歩道関係功労者表彰(自然環境局長表彰)を受賞されています。これは、長年にわたる自然歩道の維持管理、マップ作成、道標整備、講演会やイベント開催、万葉植物植栽など、普及啓発活動への顕著な貢献が認められたものです。

山の辺の道「奈良道」概略図
山の辺の道「奈良道」概略図- 山の辺の道「奈良道」を守る会

このように、「山の辺の道『奈良道』を守る会」さんは、行政や学識経験者の指導のもと、沿道の住民やボランティアを中心に、日本の歴史と文化の宝である山の辺の道「奈良道」を未来へ継承していくための重要な役割を担って下さっています。

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山の辺の道 奈良道(北コース)について

山の辺の道 奈良道(北コース)の概要

山の辺の道は、奈良県桜井市から天理市、さらに奈良市へと続く南北に長い古道です。

一般的に「山の辺の道」として観光客に人気の高いウォーキングコースは、桜井市の大神神社から天理市の石上神宮までの約16kmの区間(南コース)を指すことが多いです。

観光ガイドブックなどに掲載されている山の辺の道の石碑が建つこちらの景観は、「南コース」のものです。

山の辺の道の道標

山の辺の道はそこからさらに北、奈良市へと続く区間も存在し、これが「山の辺の道 奈良道(ならみち)」と呼ばれたり、「北コース」と呼ばれる区間です。

山の辺の道(北)コース
山の辺の道(北)コース | 天理観光ガイド・天理市観光協会
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山の辺の道 奈良道(北コース)の主な見どころ

天理~桜井間の南コースに比べて、奈良道(北コース)は観光客が少なく、より静かで素朴な里山の風景や、俗化されていない魅力的な史跡が残されています。

石上神宮(いそのかみじんぐう)

石上神宮は、奈良県天理市布留町ふるちょうに鎮座する神社です。その歴史は古く『古事記』『日本書紀』に、石上神宮・石上振神宮との記述が見られます。

日本最古の神社の一つで、武門の棟梁たる物部氏の総氏神として古代信仰の中でも特に異彩を放ち、健康長寿・病気平癒・除災招福・百事成就の守護神として信仰されてきました。

石上神宮の鳥居

南コースとの境界にもなる重要な場所です。

こちらの記事では、パワースポットとしても人気の、奈良県天理市の石上神宮社叢しゃそうと、境内から続く山の辺の道をご紹介しています。

弘仁寺(こうにんじ)

弘仁寺は、奈良県奈良市高樋町にある真言宗御室派おむろはの寺院です。山の辺の道(奈良道)沿いに位置し、地元では「高樋の虚空蔵さん」として親しまれています。

弘仁寺
白川ダム(しらかわだむ)

白川ダムは、奈良県天理市と奈良市の境に近い場所にあるダムです。周辺は公園として整備され、地元住民や訪れる人々の憩いの場となっています。

白川ダム
円照寺(えんしょうじ)

円照寺は、奈良県奈良市山町にある臨済宗妙心寺派の尼寺です。斑鳩の中宮寺、佐保路の法華寺と共に「大和三門跡」と呼ばれる門跡寺院の一つです。

華道「山村御流」の家元でもあります。

布留の高橋(ふるのたかはし)

布留の高橋は、奈良県天理市、石上神宮の近くを流れる布留川に架かる橋です。日本の古代史や万葉集、さらには伝説とも深く結びついた場所として知られています。

布留の高橋

5世紀末の豪族・物部氏の娘、影媛が、恋人の死を嘆いて、山の辺の道を北へ駆け抜けたという悲しい伝説も残っています。

布留の高橋の万葉歌

布留の高橋は、「奈良道(北コース)」の最初の見どころの一つです。石上神宮の境内を抜けてすぐの場所にあります。

奈良市街に近づくと、新薬師寺春日大社といった有名な寺社も訪れることができます。

山の辺の道「奈良道」は、メジャーな観光ルートとは異なる、静かで深みのある奈良の歴史と自然を感じたい方におすすめのコースです。

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山の辺の道「奈良道」の万葉歌碑(万葉歌詠標)

山の辺の道「奈良道」の万葉歌碑(万葉歌詠標)は、13箇所あります。

山の辺の道「奈良道」の万葉歌碑(万葉歌詠標)
山の辺の道奈良道ルート図 – 山の辺の道「奈良道」を守る会

今回ご紹介した「帯解寺」にある万葉歌碑は、万葉歌詠標9番でした。これから順に巡っていこうと思っています。

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帯解寺へのアクセス

奈良県奈良市今市町734

最後までお読み頂きありがとうございます。

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