NHK大河ドラマ「光る君へ」を毎週楽しみにしているみくるです。
ガラスペンで文学をなぞりたくて以前より始めていた『大人の脳トレなぞり書き』には、「源氏物語」「和歌」「漢詩」などが載っているので、なぞり書きを通して「光る君へ」の世界に親しめています。
前回は『源氏物語』の冒頭部分をご紹介しました。
➡「光る君へ」の世界に親しむ【大人の脳トレ名作なぞり書き】源氏物語の冒頭部分をなぞる
今回は『枕草子』第一段「春はあけぼの」と、番組で描かれて話題になった「香炉峰の雪」について解説します。
名作の情景を楽しみ「言葉」を思い出しやすくしよう
『枕草子』第一段「春はあけぼの」は、第2章「言葉」を思い出しやすくしように載っています。
言葉を思い出しやすくするには、言葉の意味を正しく理解して、その「情景を思い描く」活動が効果的です。読みながらその情景を思い描くと、実際には見えていないのに、視覚処理にかかわる「後頭葉」の活動が高まるそうです。
ガラスペンでなぞる『枕草子』
清少納言『枕草子』第一段「春はあけぼの」をなぞりました。
エルバンさんの「アンティークブーケ」でなぞって、シールを貼ってみました。
春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。
夏は夜。月のころはさらなり、やみもなほ、ほたる飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。
秋は夕暮れ。夕日の差して山の端いと近うなりたるに、烏の寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入りはてて、風の音、虫の音など、はた言ふべきにあらず。
冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭もてわたるも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりてわろし。
先に音読するページがあり、脳活トレーニングができるようになっています。
- 声に出してできるだけ早く2回音読しましょう。
- はじめの部分を暗唱しましょう。
- 生き物を○で囲みましょう。
- 「鑑賞の手引き」の口語訳を読んで、情景を思い浮かべながらもう一度音読しましょう。
なかなか暗唱できなくて、昔は得意だったんだけど、と思いましたが、「最初はできないのが当たり前。暗唱できるまで繰り返しましょう。いくつになっても暗唱はできます」と書いてあります。
昔も繰り返し練習したのでした。
枕草子を鑑賞する
巻末の鑑賞の手引きを引用します。
枕草子
清少納言(966年頃~1025年頃)
平安時代中期の女流作家・歌人。歌人や学者を多く輩出した清原氏の出身。一条天皇の中宮定子に仕える。枕草子
平安時代中期の随筆。自然や生活についての随想、日記内容の三〇〇余段から成る。明るさと機智に富んだ語り口が特徴。口語要約
大人の脳トレ名作なぞり書き
春は夜明けがすてき。しだいに空が白んで山際の辺りに、紫がかっている雲がうっすら細くたなびいているのがいい。
夏は夜がすてき。月夜はもちろん、闇夜に蛍が飛び交っているのもいい。たくさんではなくて、一匹二匹が、ぼんやりと光って飛んでいくのも趣がある。
秋は夕暮れがすてき。烏が寝床へ帰ろうとする様子や、雁などが列を組んで飛んでいるのは、とても趣がある。日が落ちてから聞こえてくる、風の音や虫の鳴く音などもすばらしい。
冬は早朝がすてき。雪が白く寒い日に、火などを急いでおこして廊下などを炭を持って移動するのも、冬の朝にふさわしい。昼になって、寒さがやわらいで、火桶の白い灰が多くなっているのはみっともない。
簡潔な文章の中に、情景を思い浮かべやすい言葉が散りばめられている素敵な文章です。「冬はつとめて」の響きが好きで、寒い冬の朝に起きるのが辛く思うと、この一節が思い浮かびます。
火を起こしてお湯を沸かしてあったかい飲み物を飲む・・・そんな情景を思い浮かべてほっこりしました。「後頭葉」が活動したかも♪
なぞるのに使ったエルバンさんの「アンティークブーケ」は、春のあけぼのをイメージして選んだインクです。
香炉峰の雪は簾をかかげて見る
「光る君へ」第16回「華の影」では『枕草子』に書かれている有名なエピソードを元にした場面が描かれ、話題になっていました。私もこの場面を知っていたので、美しく再現された様子に胸が熱くなりました。
「香炉峰の雪」のエピソードは『枕草子』第二八〇段に書かれています。
雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子参りて、炭櫃に火おこして、物語などして集まり候ふに、「少納言よ。香炉峰の雪いかならむ。」と仰せらるれば、御格子あげさせて、御簾を高くあげたれば、笑はせ給ふ。人々も「さることは知り、歌などにさへうたへど、思ひこそ寄らざりつれ。なほ、この宮の人にはさべきなめり。」と言ふ。
『枕草子』第二八〇段
現代語訳は、橋本治さんの『桃尻語訳 枕草子』より引用します。
雪がすっごく高く積もっていました。いつもと違って、御格子をお下ろして、炭櫃に火をおこしておしゃべりなんかして集まって控えていると、「ねえ、少納言、香炉峰の雪はどんなかしら?」っておっしゃられたんで、御格子を上げさせて、御簾を高く揚げたらさ、お笑いになるの。他の人達も、「そういう文句は知っていて節なんかをつけて唄ったりもするけど考えてもみなかったわよね。やっぱりこの宮の女房であるんなら、そうじゃなくちゃいけないのよね」って言うの。
橋本治『桃尻語訳 枕草子』
続いて解説があります。
ここに書いてあるのは、あたしの最も有名なエピソードである「高炉峰の雪」ね。白楽天の詩の一節で「遺愛寺の鐘は枕に欹ちて聴き 香炉峰の雪は簾を撥げて看る」っていうのがあって、それから来ているの。あたしが「物を知っている女」だというよりも、「さっと行動する女」だったということが、もしかしたら勝因だったのかもしれないわね。
橋本治『桃尻語訳 枕草子』
番組内でも、清少納言がさっと立ち上がって御簾を上げる様子が描かれていました。知っていてもとっさの判断で行動に移すのって難しいですよね。
その後の、庭に降りて皆で雪遊びをするシーンも綺麗でした。
この時が中関白家の栄華の絶頂期だったのでしょう。この後のことを思うとしみじみします。
使用したなぞり書きの本
大人の脳トレ名作なぞり書き 篠原菊紀監修 青春出版社(2017/11/5)
本の内容はこちらの記事でご紹介しています。
光る君への世界に詳しくなれるおすすめ本
橋本治さんの『桃尻語訳 枕草子』は、「春って曙よ!」の訳で話題になった本です。「だんだん白くなってく山の上の空が少し明るくなって、紫っぽい雲が細くたなびいてんの!」と続きます。
「桃尻語」に対しては、趣がなく読みづらいと思うこともあるのですが、平安時代の貴族の暮らしについてイラスト付きで詳しく解説されていて興味深いです。この本のおかげで古典が得意になりました。
最後までお読み頂きありがとうございます。