万葉歌碑巡りが好きなみくるです。『万葉集』をもっと楽しみたくて『なぞりがき万葉集』を始めました。
現存する日本最古の歌集『万葉集』全20巻、約4500首の中から、萩や梅、撫子など、花や草木を詠んだ歌を選んで取り上げられた本です。
『なぞりがき万葉集』は歌を鑑賞しながら、美しい字の書き方を学ぶことができるだけではなく、歌の背景や詠まれている植物について知ることができ、万葉の世界に触れられる本です。
今回は夏の植物より、辛いことを忘れられるという「忘れ草」にこと寄せた大伴旅人の望郷の歌と、相聞歌を2首ご紹介します。
「忘れ草(カンゾウ)」を詠んだ歌
植物は四季で分類し、現代植物名の五十音順に掲載されています。
大伴旅人が大宰府で詠んだ望郷の歌
夏の植物より「忘れ草(カンゾウ)」を詠んだ大伴旅人の歌です。
忘れ草 我が紐に付く 香具山の
古りにし里を 忘れむがため
巻3-334 大伴旅人
(現代語訳)
忘れ草をわたしの下紐に付ける。香具山の古い京を忘れるために。
大宰府(九州に置かれた地方行政機関)の長官として筑紫(九州)に赴任していた旅人の望郷の歌です。香具山(奈良県橿原市)の麓には古い京(藤原京)があり、旅人の故郷もありました。忘れ草を身につけると悲しいことや辛いことを忘れられると信じたのは中国の漢詩の影響です。大宰府に赴任した時、旅人は60歳を過ぎていて着任の翌年には、同行した最愛の妻が亡くなっています。旅人の寂しさ、心細さがしみじと伝わってきます。
なぞりがき万葉集
この歌の歌碑が奈良県橿原市城殿町の「本薬師寺跡」に建っています。本薬師寺は旅人が「香具山の古りにし里」と詠んだ藤原京に建立された寺院です。
➡【橿原の万葉歌碑めぐり】大伴旅人の望郷の歌~本薬師寺跡から香具山を望む
本薬師寺跡からは、天香具山が見えました。
忘れ草(カンゾウ)のこと
忘れ草(カンゾウ)は、黄赤色のユリに似た花です。
山野に見られる多年草で、古くに中国から渡来したと考えられています。花茎は高さが1メートルにもなり、その先に数個、多くは八重咲のユリに似た6弁の花を咲かせ、鮮やかな黄赤色の花弁の先端はやや反り返ります。若芽や若葉は山菜として食用になり、花の蕾や地下茎、茎は薬用になりました。
「忘れ草」を詠んだ万葉歌を2首ご紹介します。
(読み下し)
忘れ草 我が下紐に 付けたれど
醜の醜草 言にしありけり
巻4-0727 大伴旅人
(現代語訳)
忘れ草を下着の紐につけたけれど、忘れ草とは名ばかりで、ひどい草です。(少しもあなたのことを忘れられないのです。)
大伴家持が大伴坂上大嬢に贈った歌のひとつです。
(読み下し)
我が宿の 軒にしだ草 生ひたれど
恋忘れ草 見れどいまだ生ひず
巻11-2475 柿本人麻呂歌集
(現代語訳)
わが家の軒のしだ草ははえるばかりなのに、肝心の恋忘草は見ていても一向にはえないことよ。
「忘れ草」を詠んだ他の歌は相聞歌で、「忘れ草を持っていると、辛いことを忘れることができる」という言い伝えがあったことから、恋の辛さを忘れるためのものとして詠まれています。
『万葉集』に詠まれてい景色が身近にあって、万葉の世界を肌で感じることができる…改めて奈良に住んでいて良かったと思います。
使用したガラスペンとインク
忘れ草は黄赤色のユリに似た花を咲かせることから『COCOUNITYガラスペンセット』の「ゴールデンイエロー」のインクでなぞりました。
COCOUNITYガラスペンセット
使用したなぞり書きの本
なぞりがき万葉集―いにしえの草花の歌 ユーキャン学び出版(2022/10/21)
本の内容はこちらの記事で詳しくご紹介しています。
➡【なぞりがき万葉集】丹波大女娘子が詠んだ恋の歌と大神神社「巳の神杉」
ガラスペンで愉しむなぞり書き
なぞり書きのまとめページを作りました。
流行りのガラスペンとインクを使いたいけれど、文字を書く習慣が無いし何に使ったらいいか分からないって思っていた私にとって、なぞり書きはぴったりなガラスペンとインクの楽しみ方です。
書写とは違い、なぞり書きはなぞることに集中できるのが気に入っています。
ガラスペンの他に万年筆やボールペンなどでもなぞり書きを愉しんでいます。
最後までお読み頂きありがとうございます。