万葉集と百人一首が好きなみくるです。
『なぞりがき百人一首』をガラスペンとインクでなぞって、和歌の世界を楽しんでいます。
TBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』第1話で、斎藤工さん演じる進平が言った「吹くから」に続いて、炭鉱員みんなで声を揃えて和歌を詠むシーンがありました。
「吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風を嵐といふらむ」
『百人一首』12番の文屋康秀の歌です。
今回は『なぞりがき百人一首』から、この歌の意味と、『海に眠るダイヤモンド』と端島と百人一首についてご紹介します。
『なぞりがき百人一首』
22番/文屋康秀
『百人一首』22番の文屋康秀の歌は、文字遊びの妙技が光る一首です。
吹くからに 秋の草木の しをるれば
むべ山風を 嵐といふらむ
22番/文屋康秀
(現代語訳)
吹くとすぐに秋の草木がしおれてしまうので、なるほどそんな山風を「嵐」と書いて「あ(荒)らし」というのだなぁ(山+風=嵐、しかも草木を「荒らし」…うまい、俺!)
(語義)
吹くらかに…吹くとすぐに
しをるれば…しおれるので
むべ…なるほど
いふらむ…言うのだなぁ(感嘆)
『なぞりがき百人一首』の現代語訳は、ピンクの文字で書かれた括弧書きの部分に特徴があり、千年前の歌人の気持ちを、分かりやすく活き活きと伝えてくれています。
今回も、歌合の席でうまいこと詠んで悦に入る文屋康秀の様子が目に浮かぶようで、楽しい気持ちになりました。
文屋康秀(生没年不詳)平安前期の官人・歌人。陽成朝で正六位上・縫殿助として仕えたことなどがわずかに記録に残っている。本作は是貞親王(宇多天皇の同母兄)家の歌合の席で詠まれたとされる。六歌仙の一人。
『海に眠るダイヤモンド』と百人一首
『海に眠るダイヤモンド』で文屋康秀の歌をみんなで詠んだ理由を知りたくて、Xの公式アカウントを見ていると、「進平にいちゃんは百人一首がお好き。」という投稿が見つかりました。
《 Teppei's Diary_✍︎ 》
— 10月期日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』【公式】 (@umininemuru_tbs) October 26, 2024
進平にいちゃん(#斎藤工 )は百人一首がお好き。
鉄平(#神木隆之介)
❁ 日曜劇場 #海に眠るダイヤモンド ❁
────────────────
第𝟐話 𝟏𝟏/𝟑(日) 𝟐𝟏:𝟎𝟎 放送 pic.twitter.com/VKgTA2k1Hb
進平が『百人一首』が好きとしても、炭鉱員みんなが歌を覚えている理由が不思議なのですが、こんな投稿もありました。
😎端島(軍艦島)3
— yakoka (@yakayakou) January 26, 2017
🔶スイカ割り、祭り、花火、文化祭、百人一首大会
等の催し物をしていた
『炭坑の労働は、大変であっても賃金は良く、当時としては「相当な贅沢できる生活」をしていた様子です』
【資料は永遠に残すべし(難癖の防止)】
当時の写真⬇︎ pic.twitter.com/bTMW6JP6zJ
端島は、娯楽施設も充実していて、映画館やボーリング場などがあったことは何かで見たのですが、「スイカ割り、祭り、花火、文化祭、百人一首大会 等の催し物」もされていたんですね。
炭鉱員みんなの共通の趣味として、百人一首があって、よく話題にしていたのでしょう。もしかしたら、番組で「百人一首大会」が描かれるかもしれないと楽しみにしています。
『海に眠るダイヤモンド』と「吹くからに~」
百人一首が共通の話題だったとして、あの場面で「吹くからに」で始まる歌を選んだのは、「吹く」を「大きな口を叩く」の意味で使ったと思わせるためだと、私は思いました。
歌を詠んだのは、國村準さん演じる一平に「何だと!」と食ってかかる新入りの炭鉱員を進平が止めに入った場面でした。
「大きな口を叩くからには」と喧嘩をふっかけたと思わせて、実はそれは『百人一首』の一首。気持ちを合わせて詠むことで、炭鉱員の絆を見せて、信頼関係が大切なことを伝えたのではないかと。
文字遊びが光る歌で、言葉遊びをしてみせた楽しいシーンでした。
百人一首が好きなのは進平の妻!?
『海に眠るダイヤモンド』第2話では、佐藤めぐみさん演じる、進平の妻・栄子が、2年前の台風の日に、波にのまれたことが描かれました。
遺体が見つかっていないので、進平は今でも栄子が生きていると信じているようで、部屋がそのままになっていました。
机の上には百人一首かるた。
壁には、百人一首がかかれた紙が貼ってあります。進平が百人一首を好きになったのは栄子さんの影響のようです。
これは、Xの投稿で斎藤工さんが持っているのと、同じように百人一首の決まり字が書いてあるのではないでしょうか。
栄子さんが生きて帰ってきて、百人一首大会が催されるかもしれないと思っています。
第3話で描かれた山桜の歌
第3話「孤島の花」では、山桜を詠んだ歌が出て来ました。
「もろともに あはれと思へ 山桜 花より外に 知る人もなし」
『百人一首』66番の前大僧正行尊の歌です。
こちらの記事では、この歌の意味と『海に眠るダイヤモンド』での描かれ方と、斎藤工さん演じる進平が持っていたこちらの紙に書かれている歌についてご紹介しています。
時を超えて語られる『百人一首』の山桜の歌がとても印象的に使われた回でした。
文屋康秀と六歌仙
文屋康秀は官職は低かったのですが、六歌仙の一人で歌人としては有名でした。
日本最古の勅撰和歌集の『古今和歌集』の序文にこうあるそうです。「和歌の心が分かっている人はわずかで、そのわずかな人にも一長一短はある」。
続けて、僧正遍照、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、小野小町、大伴黒主の6人が短く論評されています。必ずしもほめれてばかりではないのですが、それでも「分かっている人」と名指しされたこの6人を「六歌仙」と呼び習わすようになりました。
文屋康秀と小野小町
文屋康秀は、小野小町の恋人の一人だったようで、三河掾に任命されて三河国(現在の愛知県東部)に下るときに「一緒に来てくれないか」と誘ったそうです。
それに対して小町は、
わびぬれば 身を浮草の 根を絶えて
誘う水あらば いなむとぞ思ふ
(現代語訳)
落ちぶれていますので、この身を浮き草として根を断ち切って誘い流してくれる水があるなら、ついて行こうと思います
と答えています。はたして、小野小町はついていったのでしょうか。
三河国は守、介、掾、目の各1人の構成で、守は従五位下が任じられるので、三河掾はあまり良い身分ではなかったということになりますね。
個人的には、小野小町が僧正遍照に逢いに奈良の石上(良因寺)に行ったお話が好きなので、文屋康秀にはついて行かなかったのでは?と思いますが、六歌仙の方々は、歌を巧みに詠んで、気持ちを上手くかわしたのかもしれませんね。
こちらの記事では、石上で詠まれた僧正遍照と小野小町の贈答歌をご紹介しています。
なぞり書きに使用したガラスペンとインク
ガラスペンは「COCOUNITYガラスペンセット」のものを、インクは「黒を愉しむ万年筆インク6色セットつき 万年筆のある毎日」の「堂鳩」を使いました。秋の草木を枯らす山風をイメージして選んだ色です。
COCOUNITYガラスペンセット
黒を愉しむ万年筆インク6色セットつき 万年筆のある毎日
使用したなぞり書きの本
なぞりがき百人一首 ユーキャン学び出版(2020/10/23)
本の内容についてはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
➡堂鳩でなぞる【なぞりがき百人一首】1番/天智天皇
ガラスペンで愉しむなぞり書き
なぞり書きに使っている万年筆インクとなぞり書きの本のまとめページを作っています。
最後までお読み頂きありがとうございます。