古墳を見て歩きながら、古代に想いを馳せるのが好きなみくるです。
奈良盆地の東縁に位置する奈良県天理市。この地は、ヤマト王権の形成期を物語る古墳が数多く点在する、まさに“古墳の宝庫”とも言えるエリアです。
前回は、そんな天理市の古墳群の中でも特に重要な意味をもつ杣之内古墳群の中から「東乗鞍古墳(ひがしのりくらこふん)」をご紹介しました。
今回は、「西乗鞍古墳(にしのりくらこふん)」をご紹介します。

西乗鞍古墳は、奈良県天理市杣之内町(そまのうちちょう)に所在し、東方の「東乗鞍古墳」や西北方の「小墓古墳(おばかこふん)」とともに一群を形成しています。杣之内古墳群では「西山古墳(にしやまこふん)」に次いで2番目の大きさです。
墳丘に登ることができ、天理の街並みや生駒山・二上山などが見渡せます。また、春には桜が見事に咲き誇り、お花見を楽しむ方で賑わいます。歴史とともに眺望も楽しめるのが、この古墳の最大の魅力です。
天理市の杣之内古墳群を巡る「西乗鞍古墳」
西乗鞍古墳の概要
奈良県天理市の杣之内古墳群に属する「西乗鞍古墳(にしのりくらこふん)」は、全長約118メートルの前方後円墳です。5世紀末頃(古墳時代後期)に築造されたと考えられており、杣之内古墳群では西山古墳に次ぐ規模を誇ります。

墳丘の周囲には内濠・外堤が巡り、さらに外側に外濠がある二重周濠構造を備えた壮大な古墳です。円筒埴輪や形象埴輪、須恵器・土師器が出土し、当時の権力者が眠る墓であったことを物語ります。

史跡指定と「杣之内古墳群」への名称変更
西乗鞍古墳は、2018年(平成30年)2月13日に、既に国の史跡に指定されていた西山古墳に追加指定されました。これに伴い、史跡名称も「西山古墳」から「杣之内古墳群」へと変更されています。

この追加指定は、単に史跡に指定された古墳の数が増えたというだけでなく、西乗鞍古墳を含む杣之内古墳群の歴史的・文化的価値が改めて評価された証拠でもあります。物部氏の勢力を示す古墳群全体が、国の文化財として体系的に守られることになったのです。
墳丘に登ってみよう!西乗鞍古墳の頂上からの眺望
西乗鞍古墳の魅力は、何といっても墳丘に登ることができる点です。
実は、最初に訪れたのは夏。草が生い茂っており、登るのを断念しました。

そこで、翌年1月にリベンジ。見通しも良く、無事に墳丘に登ることができました。

冬に行われる下草刈りのおかげで階段が現れていました。

道路から一段高くなった平坦面は、かつての内濠にあたります。

ここを端から端まで歩くと、古墳の全長118mというスケールを体で実感できました。

かつての内濠にあたる平坦面から、さらに階段を登ると墳丘に到着します。

墳頂に立つと、周囲の大和の山々が一望できます。南には二上山や葛城山、東には三輪山、そして天理の町並みも眼下に広がり、被葬者が眠る地の壮大さを実感できました。

後円部から前方部を望むと古墳のスケールがよく伝わります。

墳丘に登り後円部から前方部を見渡すと、なだらかな曲線でつながる古墳の造形美が実感できます。端から端まで続くラインの優雅さに、思わず胸が高鳴り、古代の人々がこの形に込めた意図を想像して興奮しました。
大元帥陛下駐蹕之處碑
前方部の墳頂には「大元帥陛下駐蹕之處碑(だいげんすいへいかちゅうひつのところひ)」が建っています。

これは1932年(昭和7年)、陸軍特別大演習の際に昭和天皇が、大和平野を見渡せるこの場所を統監所として利用されたことを記念する碑です。
西乗鞍古墳の出土品と被葬者
墳丘の斜面には小さな丸石(円礫)があり、築造当時は墳丘全体がこの石で覆われていたそうです。登ってみると、古代の人々が手間をかけて整えた姿が目に浮かびます。埋葬施設は盗掘を受けており、墳頂部には芝山産の板石が散乱していたそうです。
2012年には地中レーダー探査と電気比抵抗探査が行われ、後方部の中央に幅約4.5m、長さ約12mの竪穴式石室の存在が推測されました。想像するだけでも、古代の埋葬の様子が目に浮かびます。
これまでに出土した遺物は、銅鏡、鉄剣、鉄刀、金環、勾玉、土器などです。さらに明治時代の開墾で、碧玉製の鏃や車輪石、管玉、鉄刀も見つかっており、古墳の歴史の深さを感じさせます。
墳丘や周辺からは、円筒埴輪、鰭付円筒埴輪、朝顔型埴輪、家形埴輪なども出土しています。これらを見ていると、当時の首長がどのように権威を示していたのか、少し想像が膨らみます。

西乗鞍古墳の被葬者は明確にはわかっていませんが、布留遺跡の首長の墓と考えられています。また、東海地方で見られる前方後方形の特徴や、大和王権の古墳(東殿塚古墳)の出土品と類似する点から、大和王権とのつながりの中で造られた古墳と考えられています。墳丘に登って眺めると、その存在感と歴史の重みを、身近に感じることができます。
西乗鞍古墳のまとめ
墳丘に登れる西乗鞍古墳は、実際に歩くことで全長や曲線美を体感できる古墳です。内濠や眺望、碑など、見どころも多く、歴史的価値とともに散策の楽しさも満載です。
杣之内古墳群4基の比較表
これまでの記事でご紹介してきた、杣之内古墳群に属する4基の古墳(西山古墳・小墓古墳・東乗鞍古墳・西乗鞍古墳)の特徴をまとめました。
古墳名 | 形式 | 全長 / 直径 | 墳丘の特徴 | 墳丘登頂 | 主な見どころ | 被葬者の考察 |
---|---|---|---|---|---|---|
東乗鞍古墳 | 前方後円墳 | 約83m | 前方部がやや高く、後円部は円筒埴輪列が残る | 一部登れる | 阿蘇ピンクの石棺 | 地域支配層の首長と推定 |
西山古墳 | 前方後方墳 | 約190m | 日本最大級の前方後方墳、墳丘保存良好 | 登れる | 巨大墳丘、埴輪・副葬品 | 物部氏関連の首長墓 |
小墓古墳 | 前方後円墳 | 約60m | 多彩な埴輪、木製品が出土 | 登れない | 高床式の家形埴輪、木製の埴輪 | 物部氏ゆかりの首長墓 |
西乗鞍古墳 | 前方後円墳 | 約118m | 滑らかな曲線の前方後円墳、内濠が残る | 登れる | 墳丘からの眺望、内濠、大元帥陛下駐蹕之處碑 | 物部氏勢力との関連が指摘される首長墓 |
西乗鞍古墳へのアクセス
奈良県天理市杣之内町
杣之内町から延びる片側一車線の道路を南へ進むと、信号のある交差点にさしかかります。左へ曲がると「なら歴史芸術文化村」に至りますが、この交差点を南へ約300m行くと、三叉路となります。この三叉路の南東側に西乗鞍古墳は所在します。
天理市営駐車場 山の辺の道(杣之内)を利用されると便利です(徒歩5分)。

写真右手が「西乗鞍古墳」、左手が「東乗鞍古墳」です。

西乗鞍古墳は、天理市杣之内町の古墳群の一つで、東乗鞍古墳や小墓古墳も近くにあります。合わせて散策すると、より充実した古墳巡りを楽しめます。
こちらの記事では、杣之内駐車場のすぐ西側に広がるひまわり畑と、周辺の見どころをまとめてご紹介しています。
最後までお読み頂きありがとうございます。