生まれも育ちも奈良県のみくるです。幼い頃より何となく参拝してきた県内に数多くある神社仏閣について、きちんと知りたいと思っています。
今回は、安産・子授け祈願で有名な帯解寺をご紹介します。奈良県奈良市今市町にある華厳宗の寺院で、皇室や徳川将軍家とのゆかりも深く、「日本最古の安産・求子(子授け)祈願所」とされています。

安産・子授け祈願の「帯解寺」
帯解寺の概要
帯解寺(おびとけでら)は、奈良県奈良市今市町にある華厳宗の寺院で、日本最古の安産・求子(子授け)祈願の霊場として知られています。正式名は、子安山 帯解寺(こやすざん おびとけでら)です。

帯解寺の創建は、今からおよそ1200年前の天安2年(858年)と伝えられています。
文徳天皇の妃である染殿皇后(藤原明子)が、長らくお子に恵まれず悩んでいたところ、帯解寺の地蔵菩薩に祈願した結果、無事に後の清和天皇を安産されたことに由来します。文徳天皇はその喜びから、「無事に腹帯が解けて安産できた寺」という意味で「帯解寺」という寺号を賜ったとされています。
以来、帯解寺のご本尊である帯解子安地蔵菩薩は、安産や子授けの霊験あらたかな仏様として広く信仰を集めてきました。
江戸時代には徳川将軍家も深く帰依し、三代将軍家光公も側室の安産を祈願し、四代将軍家綱公を無事に授かったと伝えられています。
現代でも、皇室関係者のご懐妊の際には祈願法要が行われ、岩田帯やお守りが献納されるなど、皇室とのつながりも続いています。
帯解寺のご利益
帯解寺のご利益は、主に以下のように知られています。
- 安産祈願: 日本最古の安産祈願の霊場として有名で、本尊の帯解子安地蔵菩薩に祈願することで安全な出産が叶うとされています。妊娠5ヶ月目の戌の日に腹帯を巻く「帯祝い」が特に人気で、皇室や多くの参拝者が安産を願って訪れられます。
- 子授け(求子): 子作安寿犬のお守りや求子祈祷を通じて、子宝に恵まれるご利益があるとされています。文徳天皇の妃・染殿皇后が子を授かった故事に由来します。
- 健康・病気平癒: 小野小町が病気平癒を祈願した逸話から、身体の健康や病気の回復を願う参拝者もいます。
- 厄除け・招福: 節分星祭や毎月の護摩祈祷会では、厄災除けや福を招く祈祷が行われます。
特に安産と子授けのご利益が強く、祈祷済みの腹帯やお守り(子作安寿犬など)が人気です。特に「戌の日」には、安産祈願に訪れる多くの参拝者で賑わいます。
山門前に「戌の日」が掲示されていました。

帯解寺のご本尊
帯解寺のご本尊は「帯解子安地蔵菩薩立像」で、鎌倉時代作の国の重要文化財に指定されています。お腹のあたりに帯を結ぶような姿から「腹帯地蔵」とも呼ばれ、安産の信仰を集めています。

毎年3月初旬に秘仏が公開され、ご本尊「帯解子安地蔵菩薩」様に加え、春日赤童子や虚空蔵菩薩、三面六臂大黒天などの普段は公開されない貴重な仏像、仏画を拝観できます。
帯解寺の境内の様子
山門(仁王門)
境内への入口となる門です。かつては徳川家によって寄進された立派な二階建ての楼門でしたが、江戸末期の地震で倒壊し、現在は簡素な四脚門造りとなっています。

山門をくぐると、参道が本堂へと続きます。
本堂
本堂は境内の中心に位置する、ご祈祷が行われる場所です。
本堂には、鎌倉後期の木造地蔵菩薩半跏像(重要文化財)が安置されています。この「帯解子安地蔵菩薩」は、腹部に腹帯を巻いた珍しいお姿で、安産・子授けの象徴です。普段は秘仏ですが、春季(2025年3月1日~8日予定)・秋季(2025年11月予定)の特別公開で拝観可能です。

本堂内には、十一面観音立像、千手観音立像、染殿皇后画像なども安置されています。

手水舎
手水舎は、寛文3年(1663年)に四代将軍徳川家綱公によって寄進されたものです。


鐘楼
鐘楼には、1966年(昭和41年)に造られた鐘が吊るされています。


水子地蔵
境内の奥の方には、水子地蔵が祀られています。生まれてこられなかった幼い命を供養する場所で、多くのお供え物が捧げられています。

稲荷社
小さな祠にお稲荷様が祀られています。


十三重石塔

地蔵堂
本堂近くに小さな地蔵堂があり、子安地蔵を模した小さなお地蔵さんが並びます。安産や子作を願って奉納されたものや、お礼参りのしるしとして置かれたものも。色とりどりの前掛けやお守りがかけられています。

地蔵堂の前の不動明王像は、波切不動(なみきりふどう)です。
波切不動は、弘法大師空海が唐からの帰路で嵐に遭遇した際に彫り上げたという伝承のある不動明王です。立ち姿をされていて、航海の安全だけでなく、「早く」願いを叶えてくれると言われています。
地蔵堂の隣には、安産・求子(子授け)祈願の絵馬が奉納されています。

万葉歌碑
地蔵堂の隣には万葉歌碑が建っています。

(読み下し)
春霞 たなびく今日の 夕月夜
清く照るらむ 高松の野に
万葉集 巻10-1874 作者不詳
(現代語訳)
春霞がたなびいているこの夕月夜、高松の野に月は清く照りわたることだろう。
こちらの記事では、山の辺の道『奈良道』を守る会」さんが建立された帯解寺に建つ万葉歌碑(『万葉集』巻10-1874)と、「山の辺の道 奈良道(ならみち)」についてご紹介しています。
奈良の八重桜
帯解寺では、ソメイヨシノや山桜、枝垂れ桜などと共に、奈良市の花である「奈良の八重桜」も植えられています。

八重桜は、4月下旬から5月上旬にかけて淡黄色の花を咲かせます。ソメイヨシノが散り始めた頃に見頃を迎えるので、比較的長い期間、桜を楽しむことができそうです。

奈良の八重桜を奉納された方のお名前が記された立て札には、小倉百人一首第61番に収録されている、伊勢大輔の和歌が添えられていました。
(題詞)
一条院の御時、奈良の八重桜を、人の奉りて侍りけるを、そのおり、御前に侍りければ、その花をたまひて(題材にして)、「歌詠め」と仰せ言ありければ(読める)
(読み下し)
いにしへの 奈良の都の 八重桜
けふ九重に 匂ひぬるかな
伊勢大輔(61番) 『詞花集』春・29
(現代語訳)
古(いにしえ)の奈良の都に咲いていた八重桜が、今日、都である平安京(九重)で、いっそう美しく香っていることだなぁ。
伊勢大輔は、奈良から宮中に届けられた八重桜の献上品を、宮中で受け取る役に抜擢されました。その時、藤原道長から急に即興で詠めと言われ、即座に返したのがこの歌です。
奈良の栄華を偲びつつ、京の都の繁栄を詠んだ歌ですが、歴史ある帯解寺で見る八重桜もまた格別でしょう。桜が咲く頃にまた参拝しようと思います。
帯解寺へのアクセス
奈良県奈良市今市町734
拝観案内
- 拝観時間: 9:00~16:00
- ご祈祷受付:毎日 8:30~16:30(予約不要で受付順にご祈祷いただけます。初参り、七五三参りは要予約。)
- 拝観料:一般500円(特別展時600円)、中高生300円、小学生100円
電車をご利用の場合
JR万葉まほろば線(桜井線)「帯解駅」下車、北へ徒歩約5分。

帯解駅の前に案内看板が出ています。

お車をご利用の場合
西名阪道路「天理IC」から国道169号線を奈良方面へ約10分。
無料駐車場あり
※普通車は約50〜70台、バスは2台駐車可能。

帯解寺 第1駐車場

帯解寺 第3駐車場

帯解駅の隣にはコインパーキングがあるので、周辺の観光に便利です。

帯解駅周辺の観光案内図です。

路跨橋から見る帯解寺も綺麗でした。

この記事では、奈良市柴屋町にある龍象寺(りゅうぞうじ)の魅力と、境内の様子を詳しくご紹介しています。
龍象寺は、聖武天皇の勅願により行基菩薩が開基したと伝わる歴史のあるお寺で、帯解寺と同じく安産・子授け祈願で知られます。
本堂に描かれている天井画「帯解龍王(九龍大神)」が棲む「広大池」の景観も合わせてご紹介しています。
最後までお読み頂きありがとうございます。