『万葉集』と『百人一首』が好きなみくるです。
『なぞりがき百人一首』をガラスペンとインクでなぞって、和歌の世界を楽しんでいます。
『なぞりがき百人一首』は和歌の世界をなぞりがきで体感できる本です。
今回は、3番の柿本人麻呂の歌をご紹介します。一番好きな歌人です。
『なぞりがき百人一首』3番/柿本人麻呂
あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の
『百人一首』番3/柿本人麻呂の歌は、「歌の聖」が詠んだ巧みな恋の歌です。
あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の
長々し夜を ひとりかも寝む
3番/柿本人麻呂
(現代語訳)
夜は谷を隔てて雌雄が別々に寝るという山鳥の、長く垂れ下がった尾羽のように長い長い秋の夜を、ひとり淋しく寝ることになるのかなぁ(君と離れ離れの夜は、とても長くて淋しいよ)
(語義)
あしびきの…山鳥の枕詞
かも寝む…「か(疑問)」「も(強意)」+「む(推量)」は二重の係り結び。寝ることになるだろうか、の意
柿本人麻呂(生没年不詳)飛鳥時代に活躍した歌人。『万葉集』に長歌、短歌を数十首残し、朝廷の重要な場面での歌が散見されるところから、一説には持統朝の宮廷歌人だったとも。枕詞や対句などの技巧に秀で、ことに長歌は彼によりその形式が完成したともいわれるが、出自・経歴にはなお謎が多い。山部赤人と並んで「歌聖」と称される。三十六歌仙の一人。
「歌聖」と称される柿本人麻呂が詠んだ巧な恋の歌です。「秋の夜長」を表すのによく使われます。
山鳥は日本の山にいる野鳥ですが、雄の尻尾が長いので、「長い」ことを表すのに使われます。また山鳥は、昼は雄雌一緒にいて、夜は別々に分かれて峰を隔てて眠るという伝承があるので、ひとり寝を表す時にも使われます。
つれない異性を想って一人過ごす夜の長いこと。また、秋は気候がだんだん涼しくなってくるので寂しさがいっそうつのるのでしょう。
上の句すべてが「長々し」にかかる序詞になっています。この序詞もまたとっても長いもので、歌にひっかけてあるのかもしれません。「山鳥の尾の しだり尾の」と語尾を合わせることで、音感の面白さも特筆される印象深い名歌です。
実は柿本人麻呂の歌ではない?
「歌聖」の巧みな技巧が光る歌ですが、現在では人麻呂の作ではないと考えられています。
『百人一首』に採られた柿本人麻呂の歌は、「後撰和歌集」が出典ですが、原歌は『万葉集(第11巻:2802番歌)』だといわれていて、詠み人知らずになっています。
(読み下し)
思へども 思ひもかねつつ あしひきの
山鳥の尾の 長きこの夜を
百人一首 巻11-2802 作者未詳
(現代語訳)
どんなにあなたのことを思っても、思いは尽きない。この夜は山鳥の尾のように長いから。
『百人一首』とはだいぶ印象が異なりますが、この歌には「或本の歌に曰く、”あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む”」という注がついているため、同じ和歌らしいと分かります。
『百人一首』の現代語訳に「秋の夜」とありますが、『万葉集』に採られているもとの歌は別に秋の歌として題があったり部立をされているわけではありません。万葉の時代から「夜長」といえば秋だったのですね。
「歌聖」柿本人麻呂
「詠み人知らず」の歌が人麻呂の作とされているのは、平安時代に人麻呂がどれだけ人気だったかを物語るようです。時代を経ながらアレンジされて、人麻呂の歌になったといわれています。
奈良県天理市にある柿本氏の氏寺「柿本寺跡」には、人麻呂の遺骨を葬ったとされる「歌塚」が建っています。
人麻呂崇敬が盛んになるにつれ、歌塚として有名となり、多くの歌人が参拝したようです。
『藤原清輔家集』(平安時代末期)に
「大和国石上柿本寺という所の前に人磨呂の塚ありと聞きて卒都婆に柿本人麻呂の塚としるしつけて傍にこの歌をなん書けり。世を経ても あふべかりける 契こそ 苔の下にも くちせざりけれ」
とあります。
藤原清輔は『百人一首』84番に採られている平安時代後期の歌人です。平安時代の歌学を大成させたといわれています。平安時代の和歌の名人も柿本人麻呂を崇敬していたのですね。
こちらの記事では「柿本寺跡」をご紹介しています。
三十六歌仙と『小倉百人一首』
「古典まめ知識」のコーナーでは、三十六歌仙と『小倉百人一首』について解説されています。
『黒を愉しむ万年筆インク』の孔雀でなぞりました。深い綺麗な緑です。
『小倉百人一首』に収載された三十六歌仙(番号は『小倉百人一首』の順番)
- 柿本人麻呂(3)
- 山部赤人(4)
- 猿丸大夫(5)
- 中納言家持(6)
- 小野小町(9)
- 僧正遍照(12)
- 在原業平朝臣(17)
- 藤原敏行朝臣(18)
- 伊勢(19)
- 素性法師(21)
- 中納言兼輔(27)
- 源宗于朝臣生(28)
- 凡河内躬恒(29)
- 壬生忠見(30)
- 坂上是則(31)
- 紀友則(33)
- 藤原興風(34)
- 紀貫之(35)
- 平兼盛(40)
- 壬生忠見(41)
- 清原元輔(42)
- 権中納言敦忠(44)
- 中納言朝忠(44)
- 源重之(48)
- 大中臣能宣朝臣(49)
※リンク先は当サイトの記事です。順にご紹介しようと思っています。
使用したなぞり書きの本
なぞりがき百人一首 ユーキャン学び出版(2020/10/23)
本の内容についてはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
➡堂鳩でなぞる【なぞりがき百人一首】1番/天智天皇【万年筆のある毎日】
使用した万年筆インク
黒を愉しむ万年筆インク6色セットつき 万年筆のある毎日
こちらの記事で詳しくご紹介しています。
➡ガラスペン【黒を愉しむ万年筆インク6色セットつき 万年筆のある毎日】レビュー
ガラスペンで愉しむなぞり書き
なぞり書きに使っている万年筆インクとなぞり書きの本のまとめページを作っています。
最後までお読み頂きありがとうございます。