東北の文化を奈良で体感できると聞いて、さっそく足を運んできたみくるです。
「こけし」とひとことで言っても、産地によって表情や雰囲気が大きく異なるのをご存じでしょうか。
奈良県天理市の「天理大学附属天理参考館」で開催中の第99回企画展「こけしⅡ―遠刈田と土湯・中ノ沢―」では、東北地方を代表する三つの系統に焦点を当て、それぞれの個性を見比べられる展示が行われています。

作風の違いに加え、後ろ姿までじっくり鑑賞できる工夫や、制作道具の紹介もあり、こけし文化を多角的に楽しめる内容でした。
天理参考館 第99回企画展「こけしⅡ―遠刈田と土湯・中ノ沢―」
総合民俗博物館「天理参考館」
天理大学附属天理参考館は、奈良県天理市にある「世界の生活文化と考古美術の博物館」です。

考古・美術工芸・歴史・民俗など、世界各地から集められた約30万点もの資料を収蔵し、常設展では日本や世界の多様な文化に触れることができます。
さらに、今回のような企画展や特別展も定期的に開催されており、訪れるたびに新しい発見があるのが魅力です。

天理参考館の成り立ちや常設展示については、また別の記事で改めてご紹介しますので、ここでは企画展「こけしⅡ―遠刈田と土湯・中ノ沢―」に焦点を当ててレポートしていきます。
天理参考館は3階建ての建物です。1階のエントランスホールにある受付で入館料を支払い入館すると、「企画展・特別展」と合わせて「常設展示」も観覧できます。

企画展・特別展は、3階の「企画展示室」で開催されます。

遠刈田・土湯・中ノ沢 ― こけし三系統の魅力
東北のこけしは11系統に分類されますが、なかでも三大発祥地として知られるのは、宮城県の遠刈田系(とおがったけい)・鳴子系(なるこけい)、福島県の土湯系(つちゆけい)です。
第99回企画展「こけしⅡ―遠刈田と土湯・中ノ沢―」では、そのうちの遠刈田系と土湯系に加え、土湯系の一派である中ノ沢系(なかのさわけい)の三系統が並び、それぞれの作風をじっくり比べられるようになっていました。

こけしといえば、山形県米沢市にお住まいのイラストレーター・mizutamaさん。かわいらしいイラストや塗り絵本も出版されていて、こけしがお好きなことでも知られています。
私自身もmizutamaさんの発信を通じてこけしに親しみを持つようになり、奈良でこけし展があると知ったときには「これは行かなくては!」と楽しみにしていました。
同じ「こけし」でも、遠刈田はきりりとした端正な顔立ち、土湯は子どものように愛らしい表情、中ノ沢は素朴で親しみやすい雰囲気と、それぞれに個性があります。
系統ごとに整然と並んだ展示を見比べると、地域の文化や職人の美意識が伝わってきて、思わず時間を忘れて見入ってしまいました。

遠刈田系(宮城県)

遠刈田系こけしは、宮城県の遠刈田(とおがった)地域で作られています。頭が大きく、端正で引き締まった顔立ちが特徴で、模様もシンプルで力強く、全体に安定感のある印象です。


土湯系(福島県)

土湯系こけしは、福島県の土湯温泉を中心とした地域で作られています。頭と胴のバランスが小ぶりで、子どものように愛らしい表情が魅力。赤や黒を使った特徴的な模様も多く、親しみやすさを感じます。


中ノ沢系(福島県)

中ノ沢系は土湯系の一派で、素朴で温かみのある雰囲気。線や模様が柔らかく、より庶民的でほっとするような表情が魅力です。

展示では「たこ坊主」と呼ばれるユニークな形のこけしもあり、こけしは女の子が多いのに対して「たこ坊主は男の子?」と説明されていて、思わず笑顔になりました。線や模様も柔らかく、より庶民的で親しみやすい表情を楽しめます。

「たこ坊主」は、びっくりまなこ、団子鼻、厚くちびる、真っ赤なほっぺが特徴です。イラストも可愛らしくてほっこり。

後ろ姿まで楽しめる展示の工夫
とても印象に残ったのが、こけしをガラスケースで360度見られるように展示してあったことです。

正面だけでなく後頭部や髪型、模様の描き方までしっかり鑑賞でき、普段は気づかない新しい魅力を発見できました。
「この後ろ姿の描線がかわいい!」と、つい足を止めてしまう瞬間もありました。

遠刈田系の菅原庄七さんは、鳴子系の「ねりこま」のような形のこけしも作られました。

「菅原庄七さんは鳴子系の産地に近い栗原群生まれなので、記憶をたどって試みたのかも!」と解説がありました。

後ろ姿を「後頭部の三ツ山の描き方にも個性が出ていておもしろいわ!」と解説がありました。こんなふうに鑑賞のポイントを可愛らしく教えてくれるので、より興味が湧きました。

ろくろや道具から学ぶ、こけしの制作過程
会場には、ろくろや筆など、実際にこけし作りで使われる道具も展示されていました。
木を削って形を整え、そこに一本一本の線を描き込んでいく――シンプルに見えるこけしの背後に、職人の高い技術と手間が込められていることを実感します。
ただ「かわいい」だけでなく、工芸としての奥深さに触れられる点も、この企画展の魅力だと感じました。

こちらに展示されているのは、福島県の「二人挽き轆轤(ろくろ)」です。

二人挽き轆轤(ふたりびきろくろ)は、こけしなどの木工品を作る伝統的な道具です。二人で協力して回すのが特徴で、一人が紐を引いて心棒を回転させ、もう一人が木材をカンナやノミで削って形を整えます。息を合わせて作業することで、滑らかで美しい仕上がりが生まれます。何百年もほとんど変わらない道具で、手作業ならではの温かみや、家族や師弟の絆も感じられる工程です。
開催は9月8日まで!残り会期をお見逃しなく
今回ご紹介している第99回企画展「こけしⅡ―遠刈田と土湯・中ノ沢―」は、2025年9月8日(月)までの開催です。
残りわずかな会期ですので、興味を持たれた方はぜひ早めに訪れてみてください。
- 会場:天理大学附属天理参考館(奈良県天理市)
- 開館時間:9:30~16:30(入館は16:00まで)
- 休館日:火曜日
- 入館料:大人500円 ほか
詳しくは「天理大学附属天理参考館の公式サイト」をご確認ください。

次回企画展も注目!
こけし展の次には、天理大学創立百周年記念・天理図書館開館95周年記念展「漱石・子規・鷗外―文豪たちの自筆展―」 が予定されています。
夏目漱石、正岡子規、森鷗外といった文豪たちの直筆資料を間近で見られる貴重な機会で、文学好きにはたまらない内容です。
会期:2025年10月15日(水)~11月17日(月)
こちらの展示については、また改めて詳しく紹介したいと思います。

奈良で楽しむ東北伝統こけし展「こけしⅡ」の見どころまとめ
東北の伝統こけしを奈良で楽しめる今回の企画展は、展示の工夫もあって、こけしの新しい魅力をたくさん発見できました。
展示の最後は、遠刈田系・土湯系・中ノ沢系のこけしが勢ぞろい。三系統の魅力振り返ります。

9月8日(月)までと会期は残りわずか。こけし好きはもちろん、伝統工芸や民俗文化に興味のある方にもおすすめの展示です。
次回の「文豪たちの自筆展」にも期待しつつ、ぜひ今のうちに天理参考館へ足を運んでみてくださいね。
天理大学附属天理参考館へのアクセス
住所
〒632-0016 奈良県天理市守目堂町250
電車でのアクセス
JR桜井線「天理駅」・近鉄天理線「天理駅」下車 南東へ徒歩約20分
※天理駅からバスをご利用の場合
天理大学(杣之内キャンパス)行き 天理大学下車 徒歩約2分
車でのアクセス
名阪国道天理東インターより南へ約3km
無料駐車場あり

詳しくは「天理大学附属天理参考館の公式サイト」をご確認ください。
最後までお読み頂きありがとうございます。