神々しい三輪山を御神体とする大神神社によくお詣りしているみくるです。
大神神社の二の鳥居から、三輪山の聖域を辿る今回の桜紀行。
これまでの記事では、神の子の物語が息づく「大直禰子神社(若宮社)」や、知恵の神様を祀る「久延彦神社」、そして大和三山を一望する「大美和の杜展望台」の絶景をご紹介してきました。
展望台からの素晴らしいパノラマを満喫したあと、多くの人はそのまま来た道を戻られますが、実はその先に、もう一つの素晴らしい空間が広がっているのをご存知でしょうか。
今回は、展望台から少し坂を下った場所に位置する「大美和の杜(公園エリア)」をご紹介します。
※写真は2022年4月1日に撮影しました。
桜の見頃は例年3月下旬〜4月上旬です。
2026年現在も例年どおり楽しめます。
枝垂れ桜の見頃と阿波野青畝「月の山」の句を訪ねて
展望台の喧騒を離れて出会う、静かな春
「大美和の杜(おおみわのもり)展望台」で絶景を堪能したあとは、「狭井神社(さいじんじゃ)」方面へと続く緩やかな坂を下っていきます。

坂を下りきると、まず目に飛び込んでくるのが、静かな水をたたえた「鎮女池(しずめいけ)」です。

池のほとりには、趣のある「阪口茶店」や「沢井茶店」が並んでいます。

三輪名物のそうめんや甘味が楽しめるこれらの茶店からは、お出汁のいい香りが漂ってきて、思わず足を止めたくなる誘惑に駆られます。今回は立ち寄りませんでしたが、満開の桜を眺めながら池の畔で一服するのも、このルートならではの贅沢な楽しみ方ですね。
鎮女池のすぐそばに広がるのが、「大美和の杜」の公園エリアです。

4月1日のこの日、展望台は多くの参拝客で賑わい、写真を撮るのも一苦労でしたが、ここへ一歩足を踏み入れると驚くほどの静寂が広がっていました。

3月下旬がベスト?優美な枝垂れ桜のシャワー
この広場でひときわ目を引くのが、大きな枝垂れ桜です。

ソメイヨシノが満開を迎えたこの日、こちらの枝垂れ桜はひと足早く見頃のピークを過ぎ、静かに花びらを散らしていました。

枝垂れ桜はソメイヨシノよりも開花が早い種類が多いため、もし最も勢いのある姿を見たいのであれば、3月の下旬に訪れるのがベストだと実感しました。
それでも、人が少ない中で風に舞う花びらを眺め、東屋で一休みする時間は、何物にも代えがたい癒やしのひとときとなりました。

三輪の神域に刻まれた言葉を辿る
桜の杜に点在する俳句結社「かつらぎ」の句碑
広場を歩いていると、歴史を感じさせる石造りの碑がいくつも点在していることに気づきます。


これらは歌碑ではなく、奈良にゆかりの深い俳句結社「かつらぎ」の記念句碑です。

碑の背面を拝見すると、「かつらぎ五百号記念」や「かつらぎ千百号記念」などと書かれていました。

俳句結社「かつらぎ」と三輪の縁
「かつらぎ」は、大正から昭和にかけて活躍した巨匠・阿波野青畝(あわのせいほ)によって創刊された歴史ある結社です。奈良の風土や自然を詠む「写生」の心を大切にされており、現在もこの大和の地で多くの俳人に愛されています。
記念号の節目ごとに、この神聖な三輪の麓に句碑が建てられてきたのでしょう。 満開の桜の下、先人たちがこの景色を前にどんな句を詠んだのか……。碑に刻まれた文字を追いながら、当時の情景を想像するのも、この場所ならではの贅沢な楽しみ方です。
俳人・阿波野青畝との再会
そんな「かつらぎ」の創始者である阿波野青畝の句碑も、この杜で見つけることができました。

月の山大国主命かな
青畝
こちらは、「かつらぎ」五百号を記念して建てられたものです。

阿波野青畝の「月の山大国主命かな」の句には、「三輪山」という前書があります。
「月の山」とは、月光に照らされ、夜の静寂の中に浮かび上がる三輪山のシルエットのこと。 古来、三輪山は本殿を持たず、山そのものを御神体として拝む日本最古の信仰の形を今に伝えています。
青畝は、月光に包まれた神秘的な山の姿を仰ぎ見たとき、「これは単なる山ではない、大国主命(大物主大神)そのものではないか」と直感したのでしょう。
「かな」という強い詠嘆の言葉には、目に見えない神の気配を、山の輪郭の中にはっきりと感じ取った驚きと畏怖の念が込められています。
桜が舞い散る昼間の華やかな風景も素晴らしいものですが、この句を読んでいると、月の光に照らされた静謐な三輪山もまた、拝んでみたくなります。

大和の地を愛し、その精神性の核心をわずか十七音に凝縮した青畝。彼が残したこの言葉は、今も変わらず三輪山の神聖さを私たちに教えてくれています。
高取の地から繋がる、大和への眼差し
この一句を目にした瞬間、以前訪れた「上子島砂防公園(かみこしまさぼうこうえん)」の風景が鮮やかによみがえりました。

青畝のご生家がある高取町上子島(かみこしま)も、実は見事な桜の名所です。あちらの春の盛りを思い出しながら、三輪の神様そのものを詠んだこの句を眺めていると、彼がいかに深く大和の地を愛し、その精神性を尊んでいたかが伝わってきます。
こちらの記事では、青畝のご生家や上子島砂防公園など、高取町の随所に設けられている5つの句碑をご紹介しています。
万葉の息吹を感じる「六首の歌碑」
広場の中ほどには、『万葉集』や『日本書紀』から三輪山にまつわる名歌を六首集めた、立派な歌碑が建っています。

額田王の有名な「三輪山をしかも隠すか…」の歌から、崇神天皇の力強い御歌まで、一首ずつ読み進めるごとに三輪山がどれほど畏敬の念を持って見つめられてきたかが伝わってきます。

※こちらの六首の歌の詳しい解説については、後日別記事にて詳しくご紹介しますね。
季節を繋ぐササユリの気配
この大美和の杜は、実は「ささゆり」の隠れた名所でもあります。

大美和の杜の一角に柵が設けれていて、ささゆりの開花球が植付けられています。

大神神社の「御神花」として大切にされているささゆり。
祈祷殿側から入る「ささゆり園」は、例年開花時期(5月下旬〜6月上旬頃)のみの限定公開となりますが、ここ大美和の杜でも、初夏には凛とした香りを漂わせるささゆりに出会うことができます。
6月の初めに訪れたときは清楚なささゆりが点々と咲き、凛とした香りを漂わせていました。

春の桜と初夏のささゆり。季節を変えて訪れることで、三輪の神様の懐の深さをより身近に感じられるような気がします。
見頃の時期や、ささゆり園の詳しい様子については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
むすび:自分だけの三輪山を見つける場所
展望台からのパノラマ絶景も素晴らしいですが、この「大美和の杜」で静かに歌を読み、散りゆく桜を愛でる時間は、三輪の「静」の魅力を教えてくれました。
もし三輪山を歩かれるなら、展望台で足を止めず、ぜひその先の物語が待つ広場まで歩みを進めてみてください。そこには、あなただけの穏やかな三輪の時間が流れているはずです。
次回は、ここから少し歩いた先にある「額田王の歌碑」や、今回触れた「六首の歌碑」の詳細を深掘りしていきたいと思います。
「大美和の杜(公園エリア)」へのアクセス
奈良県桜井市三輪79
今回ご紹介した「大美和の杜(公園エリア)」は、「大美和の杜展望台」から、「狭井神社(さいじんじゃ)」の方へ下った先にあります。

狭井神社から、山の辺の道を「檜原神社(ひばらじんじゃ)」の方へ歩いてもアクセスできます。

最後までお読み頂きありがとうございます。




