生まれも育ちも奈良県で、今は橿原市に住んでいるみくるです。
今回は、万葉歌碑を訪ねて参拝した竹田神社（たけだじんじゃ）をご紹介します。
奈良県橿原市の緑豊かな東竹田町に鎮座する竹田神社は、一見すると静かな鎮守の森ですが、この場所には、千数百年の時を超えて語り継がれる万葉の歌と、日本の歴史を彩った有力氏族・大伴氏の確かな足跡が刻まれていたのでした。
竹田神社で巡る、大伴氏が築いた万葉の風景
古代の聖地「竹田神社」
竹田神社は、奈良県橿原市東竹田町の寺川のほとりにひっとりと佇む式内社です。
東竹田町は寺川を挟んで右岸側と左岸側に集落が分かれていて、竹田神社は左岸側の集落の北西側に鎮座しています。
玉垣に囲われた境内の、南東の入口に鳥居が東向きに建ちます。
『新撰姓氏録』によると、仁徳天皇の御代に大和国十市郡の刑坂川（現在の寺川）の辺りに竹田神社があり、火明命（天火明命）の子孫とされる「竹田川辺連（たけだのかわべのむらじ）」が氏神として奉斎したのが始まりとされています。
現在のご祭神については、「天香久山命（あめのかぐやまのみこと）」とする資料と、「天火明命（あまのほあかりのみこと）」とする資料があります。どちらも竹田川辺氏の祖神にあたるため、両説が存在しています。
また、一部伝承では道臣命（みちおみのみこと）を祀るとされます。道臣命は、日本神話、特に神武東征において重要な役割を果たした人物で、大伴氏の祖神とされています。
境内はこぢんまりとしていますが、石造りの鳥居、落ち着いた素木の佇まいの社殿や石碑などが、静かな調和を生み出しています。
大伴坂上郎女の歌碑
竹田神社の周辺、「竹田の原」は、『万葉集』に登場する大伴坂上郎女（おおとものさかのうえのいらつめ）の歌の舞台です。この歌は、恋心を鶴の絶え間ない鳴き声に重ね、竹田の原の風景を鮮やかに描きます。
境内の一角には、大伴坂上郎女の歌碑が静かに建っています。
（題詞）
大伴坂上郎女、竹田庄より女子大嬢に贈れる歌二首
（原文）
打渡 竹田之原尓 鳴鶴之
間無時無 吾戀良久波
（読み下し）
うち渡す 竹田の原に 鳴く鶴の
間無く時無し わが戀ふ
万葉集 巻8-1517 大伴坂上郎女
（現代語訳）
竹田の原を飛び渡る鶴が絶え間なく鳴くように、私の恋心は時を選ばず募っている。
題詞にありように、この歌に詠まれている「竹田の原」は単なる風景ではなく、大伴坂上郎女が滞在していた「竹田庄（たけだのたどころ）」、つまり大伴氏が所有する田地（荘園）のことを指しています。
大伴氏ゆかりの地「橿原」
大伴氏は、古くからヤマト王権の軍事を司る有力な氏族でした。特に奈良時代には、平城京の北側にある佐保（現在の奈良市佐保）に邸宅を構え、「佐保大納言家」と呼ばれるほど繁栄しました。大伴旅人や大伴家持といった著名な歌人も佐保に住んでいます。
そして、大伴坂上郎女が「竹田庄」に滞在していたように、大伴氏は大和国内に複数の領地や田地を持っていたと考えられています。特に、橿原市や桜井市あたりは、古くから大伴氏の本拠地の一つであったという説も有力です。
大伴坂上郎女が竹田の地で歌を詠んだ背景には、その場所が彼女の属する大伴氏の所有する「庄（荘園）」、つまり領地であったという事情がありました。彼女はそこで農作業の管理を行ったり、時には都を懐かしんだりしながら、歌を詠んでいたと考えられます。
歌に登場する「竹田の原」は、奈良県橿原市東竹田町周辺、竹田神社の付近を指すとされます。この地域は、大和三山（畝傍山、耳成山、天香具山）に近く、古代の大和国の中心部に位置します。広々とした平野と川（寺川）が広がる風景は、鶴が飛び交う情景を容易に想像できます。
東竹田町周辺には、いまも長閑な田園風景が広がっています。
竹田神社が鎮座するこの橿原の地で、大伴氏がその基盤の一部を築き、歴史を紡いでいたことを考えると、神社の持つ意味合いも一層深まります。
かつてこの地を治め、あるいは訪れたであろう大伴一族の息吹を、今も私たちは感じ取ることができるのです。
境内の様子
竹田神社は、全体的にこぢんまりとしていながらも、手入れが行き届き、清々しい雰囲気が漂う神社です。大規模な観光地というよりは、地元の人々に大切にされている鎮守の森といった趣があります。
入口には石造りの鳥居が建ちます。明治39年10月に建立されたものです。
鳥居の横に建つ社号標には、「式内竹田神社」と刻まれています。
竹田神社は式内社に比定される神社です。
鳥居の左側に手水舎があります。手水鉢はそこそこ古いものでしたが、吐水は龍頭型の新しいものになっていました。
鳥居から見て右奥（北西側）に社殿が東向きに並んでいます。拝殿は桟瓦葺の平入切妻造です。
拝殿後方は塀に囲まれて銅板葺・一間社春日造の朱塗りの本殿が建っています。
本殿の右側（北側）には、境内社の「厳島神社」が鎮座されているようです。
本社拝殿の手前右側（北側）に「大日堂」が南向きに建っています。こちらは、かつての神宮寺とのことで、現在も境内を共有されています。
社殿と大日堂は、このように隣接して建っています。
大日堂の左側（西側）に「青面金剛」と刻まれた石碑が東向きに建っています。
青面金剛は庚申信仰のご本尊です。奈良県では「庚申」と刻まれた石碑が建つことが通例なので、やや珍しい例です。
大日堂の右側（東側）には、宝篋印塔と役行者像の納められたお堂が南向きに建っています。
さらに右側（東側）、境内の北東端に「金毘羅大権現」と刻まれた石碑が西向きに建っています。
本社社殿の左側（南側）には、「南無妙法蓮華経」「妙見宮」などと刻まれた日蓮系の石碑が東向きに建っています。
そう大きくない境内に、様々な信仰が混在した神秘的な空間となっていました。
境内の北端には、東竹田公民館が建っていました。
鎮守の森として、地元の人に大切にされている様子が伺えます。
竹田神社へのアクセス
奈良県橿原市東竹田町495
駐車場はありません。
近鉄大阪線耳成駅から徒歩約23分です。
橿原の万葉歌碑めぐり
こちらの記事では、橿原市の万葉歌碑をまとめてご紹介しています。
最後までお読み頂きありがとうございます。
