ガラスペンでなぞる【なぞりがき万葉集】末摘花(紅花)を詠んだ歌~「光る君へ」番外編~

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『万葉集』や『源氏物語』などの古典が好きで、NHK大河「ドラマ光る君へ」の放送を毎週楽しみにしているみくるです。

今回は『なぞりがき万葉集』より、「紅花(ベニバナ)」を詠んだ歌をご紹介します。『源氏物語』第6帖末摘花すえつむはなのもとになった歌です。

紅花は開いた花の先端だけを摘み取って、染料や口紅の原料にすることから末摘花の異名があります。

『なぞりがき万葉集』表紙

『なぞりがき万葉集』は、現存する日本最古の歌集『万葉集』全20巻、約4500首の中から、萩や梅、撫子など、花や草木を詠んだ歌を選んで取り上げられた本です。

花や草木に思いを託して歌を詠んだ当時の人たちの心に触れ、『万葉集』の世界を味わいながら、ゆったりと美文字レッスンの時間を楽しんでいます。

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ベニバナを「末摘花」の異名で詠んだ歌

なぞりがき万葉集

紅花べにばなに事寄せて、近頃つれない相手に詠みかけた歌です。

『なぞりがき万葉集』より紅花を詠んだ歌

末摘花は紅花の異名です。開いた花の先端だけを摘み取って染料や口紅の原料にすることからその名があります。

(原文)
外耳 見筒戀牟 紅乃
末採花之 色不出友

万葉集 巻10-1993 作者未詳

(読み下し)
外のみに 見つつ恋ひなむ 紅の
末摘花の 色に出でずとも

(現代語訳)
遠目にだけ姿を見て慕っていよう。鮮やかな紅花のように、はっきりと思いを打ち明けなくても。

(語義)
色に出る…気持ちを言動で表す

紅花で染めた紅色のようにはっきり目立ってそれと知られなくても、そっと遠くから見守りながらいつかあなたが振り返ってくれるのを待ちますという、一途な思慕を詠んでいます。

『万葉集』には、ベニバナの色や染めについて詠んだ歌が数多くありますが、「末摘花」の異名で詠まれた歌はこの一首のみです。

染料植物の紅花

紅花は、奈良時代より前に裁縫や染料技術とともに大陸から伝わり、栽培が始まったといわれます。アザミに似た鮮やかな黄色い花を咲かせ、翌日には変色します。

乾燥させた花を染料として利用します。若芽や葉は食用になり、種子から採れる油は灯りに用いられました。また花や種子は薬用にも利用されました。

『なぞりがき万葉集』より紅花を詠んだ歌「外のみに見つつ恋ひなむ紅の末摘花の色に出でずとも」

1991年、奈良県桜井市の纏向遺跡から大量の紅花の花粉が発見され、3世紀中頃には加工技術を携えてきた渡来人がこの地域で染物や化粧品などの生産をしていたことが分かりました。

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『源氏物語』の末摘花

末摘花と聞くと『源氏物語』の第6帖「末摘花」を思い起こします。末摘花という女性は、鼻が象のように長くのび、先が垂れて赤くなっていると描写されています。

鼻が赤い⇨赤い花⇨紅花、ということですね。

末摘花の容姿を思い出して光源氏が詠んだ歌です。

なつかしき 色ともなしに何にこの
すゑつむ花を 袖に触れけむ

(現代語訳)
それほど心惹かれたわけでもなかったのに、なぜ末摘花のような赤い鼻の姫と寝てしまったのか。

『源氏物語』の中の「末摘花」は、美男美女ぞろいの『源氏物語』の中では異色の不美人。その「赤い鼻」を「紅い花」にかけて光源氏に付けられた、あだ名として登場します。

あんまりな扱いにも思えますが、末摘花には光源氏の心を動かす純真さがありました。


紅花を末摘花と詠んだ歌は『万葉集』には1首のみとあるので、『古今和歌集』などにはあるのかもと調べてみると、本歌取りされた歌がありました。

人知れず 思へば苦し くれなゐの
末摘花の 色に出でなむ

古今和歌集 作者未詳

(現代語訳)
あの人に知られないままにこっそりと想っているので苦しいことです。いっそのこと、あの鮮やかな紅の末摘花のようにはっきりと態度に出してしまおうか。

「あの人を見ているだけでいいのです。私の恋は実らなくとも」そんな奥ゆかしさを『源氏物語』の末摘花からは感じます。

古今和歌集』の方は、秘めたる恋は苦しいので、いっそのこと相手に告白しようかと詠んでいるので、紫式部がインスピレーションを得たのは『万葉集』の方なのかもしれません。

万葉人が名付けた末摘花は『古今和歌集』に取られ、『源氏物語』の登場人物の名前になり、現代に至るまで夏の季語になって使い続けられている…このことを知り素晴らしく思いました。

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使用したガラスペンとインク

紅の末摘花を詠んだ歌をインクカフェ明治のいろ「洗朱」でなぞりました。

なぞり書きに使用したガラスペンとインク「インクカフェ明治のいろ洗朱」

呉竹 インクカフェ 明治のいろ 洗朱

「明治のいろ」インクは、明治の時代に思いを馳せた、その時代に流行した色をイメージしたカラーインクです。

明治時代の後期、日本文化を大切に思い、伝統的な日本調の色も新しく登場します。その中の一つが洗朱です。「あらいしゅ」とは洗ったような明るい”朱”色や、朱色が淡く薄くなったような色でもあります。

明治時代の後期、日本文化を大切に思い、伝統的な日本調の色も新しく登場します。その中の一つが洗朱です。「あらいしゅ」とは洗ったような明るい”朱”色や、朱色が淡く薄くなったような色でもあります。

ガラスペンはCOCOUNITYガラスペンセットのものを使いました。

COCOUNITYガラスペンセット

使用したなぞり書きの本

なぞりがき万葉集―いにしえの草花の歌 ユーキャン学び出版(2022/10/21)

本の内容はこちらの記事で詳しくご紹介しています。
【なぞりがき万葉集】丹波大女娘子が詠んだ恋の歌と大神神社「巳の神杉」

ガラスペンで愉しむなぞり書き

なぞり書きのまとめページを作りました。

流行りのガラスペンとインクを使いたいけれど、文字を書く習慣が無いし何に使ったらいいか分からないって思っていた私にとって、なぞり書きはぴったりなガラスペンとインクの楽しみ方です。

書写とは違い、なぞり書きはなぞることに集中できるのが気に入っています。

ガラスペンの他に万年筆やボールペンなどでもなぞり書きを愉しんでいます。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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